”安曇野ひかりプロジェクト”福島親子キャンプ<3>

 17日の午後から、お母さんたちは地球宿で「癒しのプログラム」。子どもたちは翌日午後まで親から離れてキャンプ場で野性生活を楽しんだ。17日の夕食は、自分たちで焼く「タコ焼き」と、もぎたての蒸かしトウモロコシ。昼食のカレーの残りもある。
 タコ焼き屋は、男の子グループと女の子グループに分かれた。男の子のグループは、へこんだ鉄板のいくつもの穴に、小麦粉を練ったのを入れて、そこにタコやらネギやら具を入れて焼いている。女の子はソーセージの刻んだのを具に焼いている。焼くのは時間がかかった。ぼくは、焼いている横から手を出して、「味見、味見」と言ってつまみぐいをした。
 ハマ隊長の奥さんのえっちゃんがどかんとご飯を焚いて持ってきてくれた。カレーの残りが無くなったら、味噌をご飯に乗せて食べる。タコ焼きは、焼けるしりから、誰かが持っていき、トウモロコシも20数本あったが、いつのまにやらなくなっていた。ぼくは、トウモロコシ2本食べた。
 一方、地球宿の親たち大人たちの夕食は、スタッフのバンチョーが腕をふるったごちそう。その後はシンガーソングライターのフマちゃんの演奏会。そして福島の親たちとの語らい。
 子どもたちの過ごすキャンプの方は、長々と続いた夕食からお楽しみ会に入ったときは、すっかり闇夜になっていた。雨はやんでいたが雲がまだ厚く、星空は望めない。
 子どもたちの出し物は、天気予報士になって明日の天気を予報したり、けん玉の得意な子は技を披露したり、歌を歌ったりした。シート屋根の支柱に取り付けられた工事用の電灯が、会場を照らしている。ハマちゃんが「山賊の歌」1番を歌った。その2番はぼくが歌った。
「夜になれば〜 空には星〜 月が出れば〜 おいらのものさ〜 ヤッホー ヤッホホホー みんなを呼べ〜 ‥‥」

 特別出演はシンちゃん、ギターを取り出し、コンテナに立って歌う。
「ぼくが若かったころ、チベットの4000メートルの高原をロバを引いて旅したとき、つくった歌を歌います」
 シンちゃんは、青年時代、世界をヒッピーのように旅してきた。ヒマラヤの見えるチベット高原を歩いたシンちゃん。歌は、シンちゃんという人間の心の叫びで、胸を打つ。ぼくはそれを聞きながら、同じ時刻に地球宿で歌っている、フマちゃんの豊かな愛の歌を想像し、それも聞きたかったけれど、孤独な旅人の歌も聞けてよかったと思う。
 漆黒の森を背後にしたキャンプ場の夜はふけていった。
 「暗いさびしい山の一日 そぼ降る雨に 濡れながら あの谷この沢 やぶをこぎ それでも一緒に歌おうよ」
 ぼくの好きな山の歌の二番目を心の中で歌う。この歌は、明るい一番の歌詞からさびしい二番の歌詞に移るとき、気持ちが深く沈潜する。
 18日、晴れた。子どもたちは川遊びをした。社会福祉協議会の事務局長さんが子どもたちにアイスクリームの差し入れに来てくださった。
 キャンプ場のママ、えっちゃんのメール。

 「今朝はぴっかぴかに晴れて、青空が広がっていますね〜♪ どあいで2晩目を過ごした元気な子どもたち。朝ごはんのあと、自分たちが泊まったテントの整理をしています。この後は川遊び、虫取り、まったりのんびりのグループに分かれて、最後の野外活動をします。
 お昼ご飯を食べたらどあいステージは終わり、マイクロバスで番長が迎えに来てくれて、親子で観光・買い物・温泉、そして地球宿でピザパーティーです。かわいい子どもたちと過ごせたどあいの2日間、とても楽しかった! お別れが寂しいです」
 夕食は、巨大ピザパーティ。穂高の自由保育「ひかりの子」のご夫妻が、地球宿の庭で火を起こし、巨大鉄板でピザを焼いてくださった。
 どっぷり暮れたら地球宿の庭は花火だ。子どもたちは線香花火。若者スタッフは、子どもに還って、打ち上げや回転花火で遊んでいる。火をつけると、ぐるぐる急速回転して、花火を取り巻いている者たちのところを襲うものだから、みんなはあわてて逃げ回る。それが楽しい。笑いが爆発。こういうときは、人があわてふためく姿を見るのがおもしろい。若いスタッフは大はしゃぎだ。
 19日、福島に帰る日。大人も子どもも、みんなで感想を出し合った。
 「ここには、わたしは被災者、わたしは支援者という線引きがありませんでした。みんながフラットでした。」
 こんな感想を出したお母さんがいた。だれが被災者なのか支援者なのか分からないほどだ。人と人の間に壁がない。人間として繋がっている。だから気持ちが楽だった。居心地がよかった。雨も楽しめる幸せ。福島の逆境でも楽しんでいけそうに思う。
 感想を聞いた自分にとっても新たな気づきだった。
 安曇野賛歌をえっちゃんママのピアノ伴奏で、みんなで歌った。
 バンチョウとカンちゃんがドライバーになり、たくさんの人たちに見送られて、マイクロバスは道を下っていった。