庭園の美


 大町市に「ラ・カスタ」という名称の庭園がある。こういうのがあるのを知ったのは、5月6日の白馬からの帰りだった。洋子がちょっとのぞいて帰ろうと立ち寄ったのだが、その日は「ナチュラル ヒーリング ガーデン」と称する庭園には予約してなかったから入れず、次に予約していつか来ようと家内と言って帰った。家内は以前その庭園に入ったことがある。
 その予約の日が今日だった。
 場所は松川村から大町市に入ったところにある。10時オープンなので、少し早めに着くようにして行った。入園料は大人1000円、なかなかいい値段だ。庭園は本格的ないやしの空間につくられていた。「ラ・カスタ」はアルペンローゼ株式会社の「アロマの心地よさと美をプロデュースーする」という企業活動だが、創られた庭園には、実にたくさんの花々が咲き、木々が天を突き、アルプスの水が流れ、散策路を歩くと花の香りが漂ってきた。針葉樹のエリアではフィトンチッドが心身をやわらかくほぐしてくれる。どこに立っても、アルプスを借景によく手入れされた庭園美が展開した。予約制だから、園内に入っている人は30人足らずのように感じた。

 花を愛で、木々に親しみ、人間の創造性を味わいながら散策すると、自分の中から新たな創作意欲が喚起される。東屋、そこに置かれた木の椅子に眼をやり、それらに手で触れ、自分も創ってみたいと思う。小さな野の花のようなものも、ここでは意図的に庭園作りに活かされているのを見て、我が家での庭づくりを刺激される。
 ひとつの企業がこのような完成した庭園を作り上げていること、それは企業の営利を求めるものであっても、訪れて庭に憩う人たちの心を安らかにするものであること、そこに社会的な価値を認める。
そこから思い浮かぶのは、安曇野市のなかには市民がやってきていやされる公的な憩いの庭園の完成形が存在しないということだった。国営アルプス公園があるが、そこは日常生活とは分離したところになっている。入場料も要る。ほしいのは生活空間のなかの、憩いの庭園である。そここそは市民がつくり、だれでもがやってきて楽しめる無料の美しい園であってほしい。それはいたるところに存在するものであってほしい。
 さらにさらに、理想は、地域全体が市民によって広大な庭園に創られていくことである。商店街も工場も、田園も果樹園も、道路も学校も、すべては広大な地域の庭園美の一要素になるように、そういうビジョンを持つ人びとが社会を創っている安曇野になっていく理想である。