「野菜の苗いりませんか」
朝のウォーキングで矢口さんの家まで来たとき、軽トラックの向こうから声がかかった。
「いやあ、それはうれしいです」
ぼくが来るのを待っていたかのようだ。
キュウリ、トウモロコシ、夕顔、カボチャ、ゴーヤ、いろんな野菜苗がハウスのなかにポットに入れられて並んでいる。
「じゃあ、キュウリ、ゴーヤを2、3本いただきます」
「そんじゃあ、後でお家へ持って行って置いときます」
去年も矢口さんから苗をもらって植えたのを思い出した。今年はすでにほとんどの苗を購入して植えた。種を播いたのもあるが、それは菜ものと大根、にんじん、トウモロコシ、そしてササゲなどの豆類だ。キュウリ、ゴーヤは発芽率が悪く、結局苗を購入せざるをえなかったが、数が少ないなと思っていたので、矢口さんからの「おすそわけ」はありがたかった。
アルプス公園までぐるりとウォーキングをして帰ってくると、家の入り口にたくさんのポット苗がトレイに入れられて置いてある。早くも矢口さんが持ってきてくれたのだ。えらい数が多いな、とよく見ると、ゴーヤ、キュウリ、カボチャ、夕顔が数本ずつ、さらに連続ポットにトマト苗が並んでいる。トマト苗は25本ある。紙切れがそのなかに置いてあり、「秀武さんから」と書いてあった。
午後、自転車を走らせて矢口さんにお礼を言いに行った。カボチャは二種類あり、矢口さんは、
「ことにおいしいカボチャですよ」
と推奨されて、楽しみになった。
最近姿を見ないおじいちゃんのことを聞いてみると、誤嚥性肺炎になりかけて、入院中ということだった。
「あんなによく歩いておられたのに。早く元気になってほしいです」
94歳になるおじいちゃん。また元気に散歩している姿を見たい。
「トマトはねえ、秀武さんのトマトです。地這い種です。おいしいトマトで、栄養価も高いですよ。私が吉田さんのところへ苗を届けると言ったら、トマトを持っていってほしいということで一緒にとどけたんですよ」
「そうだったんですか。それはありがたいです」
帰り道で秀武さんの家により、トマト苗のお礼を言う。
「あのトマトは加工用だから、ソースやケチャップ、ジュースにしたらいいですよ」
秀さんは、田植えも終わってちょっとゆったりした感じだ。
初めて植える地這いトマト。これも収穫が楽しみになった。ただし植える畑に余裕がないから、場所をなんとかしなければ。
サツマイモ、シモン芋が根付いた。トウモロコシの芽が出た。ニンジンと大根は間引き。ジャガイモは猛烈に元気。小玉スイカ、マクワウリ、大玉トマトもぐんぐん伸びている。ウマイナの葉っぱはつやつやとしていて実に美しい。レタスは今を盛りと茂っている。
毎朝、ひとりで散歩しておられる石原さんに、野菜を作っておられるか聞いたら、両手で囲いをつくり、
「こんな小さなところで」
とのことだったから、小松菜と春菊を数株掘りあげて、おすそ分けに、持っていった。小松菜は、この暑さで花のつぼみができかけている。早く食べなければ、とうがたつ。
石原さんも数年前に京都から移住してこられた。石原さんのうれしそうな顔を見て、ぼくは満足して帰ってきた。