農薬の空中散布

 農薬の空中散布が近々行なわれる。松枯れ対策だ。有人と無人のヘリコプターを飛ばして、薬剤をアカマツ林に散布するという。
 「松の樹皮を食べてマツノザイセンチュウを媒介するカミキリムシを駆除するには、カミキリが羽化し、樹皮を食べ始める6月中旬を目安に農薬を散布するのが効果的である、散布は6月中旬と7月中旬の2回を予定している、実施の詳細については調査中である」、と安曇野市の広報が伝えている。
 望三郎君からメールが来た。

 <安曇野に広がる松くい虫被害。安曇野市はその対策として、更新伐採、伐倒燻蒸、樹幹注入、さらに切り倒した松を薪ボイラーで利用する取り組みなど、様々な手法でこの問題に取り組んできました。そして今、市は有人ヘリによる空中散布を実施しようとしています。空中散布の是非については議会でも議論してきました。
 僕は
1、散布の効果が立証されていない。
2、生態系への影響の検証がされていない。
3、住民の合意が無い。
といった観点で、空中散布には反対してきました。しかし議会全体としては、空中散布については、安全配慮をした上で行う、という推進要望が市に対して出されています。市が空中散布をする予定だった2か所のうち、1か所の豊科大口沢は長野県の空中散布の実施基準を満たさず取りやめになりました。しかしもう1か所の明科岩州公園については、散布することを決めたという報道が5月28日付新聞でされました。これでもう決定なのか? それともまだひっくり返せるのか?
 反対するだけではダメです。空中散布しないのなら、その代わりに予防策として、樹幹注入の作業をみんなで一緒にやりましょう。富山県では森林の下草処理をヘリによる除草剤散布でやろうとし、それを反対する人たちが「草刈り十字軍」というボランティアグループを作り、毎年夏になると若者たちが全国から集まり、森の下草を刈っています。安曇野市も生態系を守るために農薬の空中散布をやめる英断をし、そして市民の手で安曇野の松を守る、という創造的解決を示したいです。
 この31日午後に説明会が明科公民館で開かれます。空中散布に反対する人は、その思いを直接伝えましょう。>

 「樹幹注入の作業をみんなで一緒にやりましょう」という呼びかけはいかにも望君らしい。昨年秋から市議会議員になり、無所属の行動派、市民派の議員として活動している彼らしい行動提起だ。この提起を実際にして、市民有志が集まってきたなら、その行動を共にする人たちは、これからの社会を創る社会派集団になる可能性をはらむように思う。
 市議会議員のおおかたはヘリコプターで薬剤を空中散布するように要望している。彼らは生態系に及ぼす危険を果たしてどれだけ正しく認識しようとしているのだろうか。他の生物にも影響の出る、一網打尽方策を、アカマツを守るために行なうという異常さに愕然とする。アカマツ被害を防ぐために環境を破壊しようとするのだから。
 長野県の資料では、「有人ヘリは大面積を一括して処理できるため、効率的で経済的にも有利だが、人の生活圏から一定の距離(200m以上)を離す必要がある。周辺住民等から、健康への影響についての訴え等が起こっている地域がある」とある。
 一定の距離が200m以上とは。空中に広がった農薬がそんな範囲でとどまるはずがない。
 この農薬散布、原発事故の放射能汚染を連想する。環境に放出された放射性物質の被害の実態は分かっていない部分のほうが多いのだ。農薬散布の被害も、まだまだ分かっていないのだ。