フクちゃん

ママに手を引かれて フクちゃんは車から降りてきた。
ぼくはフクちゃんのママに替わって フクちゃんの小さな手をとり、
家に連れて入った。
フクちゃんは泣かない。
フクちゃんのママは 紙おむつと お腹がすいたときにフクちゃんが食べるパンと
フクちゃんの好きなDVDをぼくに手渡し、
車に乗って行ってしまった。

フクちゃんはママのほうを振り返らなかった。
居間に入るとフクちゃんは ソファーにちょこんとのっかった。
ぼくはフクちゃんと並んで座り、
花の図鑑を引っ張り出して 
花の絵がいっぱい出てくるページをくりながら
「フクちゃん フクフク フクちゃんよー
フクちゃん フクフク フクちゃんよー」
とメロディをつけ メロディを変えながら 歌い、
図鑑のページを繰ってフクちゃんと眺めていった。
フクちゃんは まだ言葉がない。
フクちゃんは だまって図鑑をながめている。
「フクちゃん フクフク しずかだねえ
フクちゃん フクフク しずかだねえ」
図鑑が終わり ぼくはETVテレビをつけた。
夕方近く 子ども向け番組を放送していた。
ピタゴラスイッチ
ころころ玉がころがって 次々と玉が冒険をしていく。
「ただいま」
家内が買い物から帰ってきた。
フクちゃんを見て たちまち笑顔になった。
「フクちゃん こんにちは」
だんだんフクちゃん、元気になってきた。
テレビを見ながら クッションの背もたれを 太鼓のようにたたきだした。
フクちゃん ソファーの上でひっくりかえったりして遊ぶ。

夕食の時間です。
「おてて あらいにいこう」
フクちゃん だまってついてくる。
ぼくの手のひらに入ってしまう フクちゃんの手に
ぼくは 蛇口をのばして 水をチロチロかける。
フクちゃん 両手をあわせて ポチャポチャポチャ、
さあ ごはんだよ、3人テーブルに着きました。
家内の横に フクちゃんすわり
ぼくはフクちゃんの前にすわり
ハンバーグです。
ちょっとハンバーグ大きすぎるかな。
半分の大きさにするかな
家内が切って 千切りキャベツも フクちゃんの皿に入れた。
サラダに トマトとポテト。
フクちゃん 食べた 食べた。
小さなフォークをもって 無言で 食べる。
「こりゃ おいしいよ」、ぼくも食べる 食べる。

わあ すごい食欲。
ハンバーグ おいしいんだねえ。
「フクちゃん来るから 子どもの好きなハンバーグ」
家内が言う。
フクちゃん、キャベツも食べた。
トマトもポテトも食べた。
ごはんも食べた。 
こんなに食べて 大丈夫かね。

フクちゃんのママが帰ってきた。
午後7時半、
フクちゃん ママにつれられて 車に乗って帰っていった。
フクちゃん 1000人に一人生まれてくる発達障害
天からの授かりものなり、
周りの人に福を贈る ダウン症候群、
何も言わずに フクちゃん 笑顔を残して帰っていった。