五月一日の朝、子どもたちの服装がいつもと違って体操着だ。背中にリュックサックをかついでいる。
「きょうは、おべんとうだよー」
るりちゃんが言う。
「今日は、何?」
「えんそく」
さほちゃんが応えた。
「えー、いいなあ。うれしいなあ」
ランちゃんのリードを短く持って、先のほうをくるくる回してぼくは大きな声で言う。
「どこへ行くの?」
「あづみの公園」
と3年生のさほちゃん。
「南部公園」
と2年生のあすかちゃん。
「ふーん、1年生はどこ?」
今年入学してまだ一月のあんなちゃんは、
「しらなーい」
と返事した。
「へえ、しらないのかあ。どこだろなあ」
担任の先生は、子どもたちに行き先を教えなかったのかなあ。それとも教えたけれど、子どもに伝わっていなかったのだろうか。どこへ行くか分からないままに、お弁当をつくってもらって、支度して出てきたのか、あんなちゃん。
いつものように子どもたちと一緒に歩く。このごろ、ランちゃんのリードを子どもたちが持つようになった。リードを手渡すと、
「やったー」
と、さほちゃん。
さほちゃんはリードをもって、しばらく歩くと、あおいちゃんにバトンタッチ、それから順にあすかちゃん、ルリちゃん。ランのリードを子どもたちが持つと、ランは自分のやりたいペースを発揮する。前へ前へ引っぱったり、道端の草を食べたり、匂いをかいだり。
子どもたちはランのリードを持つのはうれしい。自分がちょっと成長したような、誇らしい気持ちになるらしい。はじめてランを見たときは怖い怖いと逃げていたルりちゃんも、今では「かわいい、かわいい」に変り、体をなでたりもする。
一度、ぼくが前へ進み、あとから子どもたちとランが遅れて来たとき、
「ランちゃん、ウンコした」
と、追いついてきた子らがしごく自然な声で報告してくれた。
「え? ウンコ?」
子どもらはウンコをそのままに残してきたという。後ろのほうを眺めてみると、50メートルほど後ろの歩道に、黒い点々が見えた。こりゃいかん、取ってくるよ、ウンコ用の一式道具が入っている袋をもって走ってもどった。それ用に折りたたんだ新聞紙でウンコをつかみとり、ポリ袋に入れて、子どもたちに追いついた。それは数日前のこと。
今日は遠足、うれしいな。
適当なところで、子どもたちとバイバイ。
そして今朝、
「昨日は楽しかった?」
「うん、楽しかった」
「お弁当、おいしかった」
「一年生はどこだった?」
「神社」
ははん、学校の近くの神社かな。
「なんぶこうえん(南部公園)は、じっかぜき(拾ヶ堰)の横を通って行ったの?」
「うん、タマネギが流れてた」
さては、だれかが水路にタマネギの古くなったのを捨てたな。子どもたちはちゃんと見ているぞ。
「3年生はアルプス公園だったね」
「アルプス公園じゃない。あづみの公園!」
さほちゃん、がんとして認めない。
「国営アルプスあづみの公園だからね。あづみの公園だよ」
そういうことだね。学校から歩いて行けるところばかり。4年生、5年生、6年生はどこだったのかな。
「あしたから連休だね。うれしいね」
「四日間、お休みだよ」
子どもたち、うれしいうれしい。