登校の道、鬼ごっこ

           <写真:穂高地区の子どもの下校>


 登校する小学生たちと一緒に通学路の途中まで歩く。ランちゃん散歩のウォーキングパトロール、上の集落の子らとは、このごろかなり長い距離を歩いている。長年この安曇野で生きてきた人たちは老い、孫たちが学童である人の数は少ない。この地区の小学生のほとんどは新興住宅地の子らだ。上の新興住宅の子らは、6人が女の子、男の子は一人。中の新興住宅の子らは男の子が5人、女の子が3人。さらにもっと下の集落の子らもいるが、細長いこの地区のこと、全体の通学の様子は分からない。
 新興住宅地と言っても、都会の住宅地とは違って、戸数が少ない。一戸建てが10軒ほど建っている。農地の宅地転換を経て造成された小住宅地は、あちこちにできている。
 ぼくが登校の安全を見ているのは、上の集落の子らと中の集落の子らである。上の子らの通学路のコースは、中と下の子らの通学路とは異なる。上の子らは、南に向かって隣の地区を通り抜け、途中で東に折れてゆるやかに下降していく。中と下の子らは東に下ってから大きな工場の敷地に沿って南に向かう。
 上の集落の女の子たちのなかには1年生が3人いる。ひとりが2年生、2人は高学年の子だ。6年生のなっちゃんの家の前が集合地で、そこにみんな寄ってきて、そろったら出発する。6人は一緒に歩き出しても、高学年の2人はマイペースですたすた歩いていく。低学年の4人は後ろから一団になって付いて行くが、どんどん距離が開いていく。ぼくはその低学年の子らと一緒に歩く。住宅地を出て200メートルほど行くと、豊科からアルプス公園方向へ通じる直線の大型道路があり、車はかなりのスピードで飛ばしてくる。子どもたちが横断する十字路には信号がない。横断するときは危険だ。ぼくは安全に気をつけて渡るように見守る。
 「右を見てー、左を見てー、はい、渡るよー」
 子どもたちが横断しようとしているのを見てドライバーのなかには、ゼブラソーンの手前で一端停止してくれる人がいる。1年生の3人は、渡り終えるとドライバーの方に向き直って、頭をぴょこりと下げてお辞儀する。ぼくも、ありがとうと言ってドライバーに会釈する。
 横断してから南に村の中をすこし行くと、回りは畑になる。左に農業高校の農園がある。そこからまた新興住宅地になり、地区の公民館のところで左折する。この道に入ると、校区でもいちばん上の地区の子どもたちが合流してくる。どんどこどんどこ、走って下ってくる。子どもたちはよく走る。子どもたちは走るもの。5,6人ぐらいのグループになって走ってきて、ぼくらをさっさか追い抜いていく。
 数日前、一緒に歩いて登校していたら、1年生のだれかが、
 「走ろう」
と言い出した。
 「よし、走ろう」
 ぼくもランと一緒に走った。百歩ほど走ると、息切れがしてきた。子どもたちもランドセルを背負って走っていたが、息が切れた。そこでまた歩く。するとまた誰かが、
 「走ろう」
と言う。またみんなはバタバタと靴を鳴らして走る。
 通学路の3分の2ぐらいまで下ってくると保育園がある。そこでぼくはバイバイする。ここまで2キロ弱かな。子どもたちは南に向かい、ぼくは北へ歩いて家に帰る。
 次の朝、途中で鬼ごっこしようと言い出した。鬼が追いかけ、みんなは逃げる。ぼくとランは一緒に逃げ、一緒に鬼になった。ハアハア、ハアハア、なかなかいい運動だ。
 その次の朝も鬼ごっこ、鬼がタッチする前に、「バリア」と言って両腕を胸のところで交差すると、タッチできないというルールを入れてきた。単純な遊びにルールが加わって、次第に複雑になり、複雑になるにつれて遊びはグレードアップする。
 ぼくとランは、鬼だ。
 「鬼だぞー。鬼だぞー」
 「おじいちゃんが来た。おじいちゃんが来た」
 子どもたちは叫びながら逃げる。
 タッチしようとすると、
 「バリア」
 すきを見てタッチする。
 保育園に来た。
 バイバイ、
 田んぼのなかの通学路。車は通らない。登校しながら鬼ごっこ。2年生の女の子、
「今日は学校で、黄な粉のダンゴをつくるんだよ」