シモン芋と日本やまにんじん

 道志村の幸雄さんから宅配便のダンボールがとどいた。何を送ってきてくれたんだろう。開けてみると、中から現れたのは、どでかい芋と不思議な苗、見たことのない植物だ。手紙が入っていた。
 「シモン芋と、日本やまにんじん(ヒュウガトウキとイヌトウキ)の苗をおくります。日本山人参(やまにんじん)は、葉や根に薬効があり、乾燥して粉末にしたり刻んだりしてお茶にして飲んでいるようです。」
とあって、「山人参(やまにんじん)」の植え方が書かれている。これはまた珍しいものだよ、どうして唐突にこのような贈り物を? と初めは合点がいかなかった。が、ははんとあの時の会話を思い出した。
 この冬、大雪が積もったとき、道志村のあたりもたいへんな積雪で孤立している集落もあるらしいとニュースで知り、幸雄さんの家は村はずれの奥まったところだからひょっとして閉じ込められているのではと電話を入れてみた。幸雄さんは、近所の数軒の人たちと村の通りまでの除雪作業をしているけれど、なかなかはかどらない。店に買い物に行くことも出来ず、家にあるもの、芽の出たジャガイモなどを食べているという話だった。芋を食べていると言ったときにこのシモン芋の話が出たようだと思う。ぼくは全く知らない芋のことだから記憶にとどめるような聴き方をせず、すっかり忘れていた。こちらは忘れてはいたけれど、幸雄さんは覚えていて、そのときの話題で芋を送ってあげるとでも言ったんだと思う。その芋を、これまた未知の「山人参」とやらを加えて、送ってきてくれたのだった。「山人参」は数株、ヒュウガトウキとイヌトウキの二種類、緑の葉っぱに土つきの根っこが生えている。
 「奇跡のさつまいも 天地のエネルギーの凝集 シモン」という見出しの説明書き1枚と、「血液サラサラ シモン料理」と書かれた料理のレシピも入っていた。
 さっそく夕方、お礼の電話を入れたら、なんだかモグモグしている感じで、
 「今、食事をしていて、げっぷが出た」とか言いながら、食事を置いて説明を始めた。ぼくが素っ頓狂な声を発してびっくりするもんだから、幸雄さんの説明に気合が入る。食事中にまんず申し訳ないことで、恐縮する。幸雄さんと奥さんは、シモン芋を毎日ジュースにして飲んでいる。奥さんは骨粗しょう症の可能性ありと診断されていた骨密度も、これで改善し、今では青年の骨密度だという。芋の葉や茎や芋自体をどうやって食べているか、その効能はどうであるかを勢いよく話してくれた。

 いったいシモン芋とはなんぞや。日本やまにんじんとは、どんな植物なのか。ネットで調べてみたら、どどっと情報が出てきた。

 シモン芋はヒルガオ科の植物でサツマイモの一種である。ブラジルの原住民が食べている白サツマイモをシモン氏が発見したのでこう呼ばれる。シモン芋は芋(塊根)も茎葉の地上部も食用となる。生のシモン芋の効果が最も高い。栄養成分の種類、量とも、圧倒的に通常のサツマイモより多い。ポリフェノールやキノコ類で注目されたβーグルカンなどの貴重な栄養素も含まれている。
 一方、日本山人参の方は、根は朝鮮人参(高麗人参)に似ており、薬効成分も似ている。しかし、朝鮮人参には血圧を上昇させる効果があるが、日本山人参には血圧を下げる作用がある。イヌトウキはおもに和歌山や四国、ヒュウガトウキは宮崎や大分、熊本の県境に自生する。阿蘇霧島山系、宮崎県境で自生する山人参は溶岩が固まった岩の割れ目など、日中に太陽があまり当たらない日陰で育つ。生育する環境は昼夜の温度差が激しいところである。日本山人参は寒さには強い。草丈は1m以上になる。十分に大きくなるには3年くらいかかる。根の部分は生薬指定されている。葉の部分も成分が高く、葉の栄養価が深まる秋に収穫する。
 江戸時代、諸大名は不老不死の秘薬を探し求めた。九州薩摩藩では日本山人参(ヒュウガトウキ)は無病息災の薬として珍重され門外不出の秘薬であった。
 2002年11月、厚生労働省は医薬品の生薬リストにヒュウガトウキの根を加えた。

 幸雄さん夫婦は息子の嫁の両親だ。さて送ってくれた珍しいもの二種。シモン芋はこれから食べる。幸雄さんは苗を植える季節になったら取り寄せた苗を送ると言ってくれたが、ネット情報では、長野県は気温が低く不向きのようだがどうだろう。山人参の苗は畑に仮植えした。朝日が当たるが西日の当たらない、日陰気味がよいということだからどこにしようか考えている。