自衛隊イラク派遣の隊員が28人自殺していた

 公開されることのなかった自衛隊イラク派遣映像記録が、防衛省に保管されていた。それがNHKの半年に及ぶ交渉で初めて開示された。昨日の「クローズアップ現代」はその放送だった。すでに過去のものとなっていた秘められた事実は知らないままに忘却されて、新たな既成事実が積み上げられていこうとしている現代、秘密裏にことが進む恐ろしさを感じる。
 映像は自衛隊が撮影した、1,000本に及ぶイラク派遣の記録だった。その内容の大半は医療支援や給水、道路の修復など、人道復興支援活動の様子だったが、中にはこれまで明らかにされてこなかった記録がある。
 武装勢力自衛隊の宿営地を攻撃するかもしれないという情報が、当初から現地警察によって伝えられていた。武装勢力に狙われているという。1か月後、宿営地に向けて迫撃砲が撃ち込まれた。このことはニュースになって報道もされている。迫撃砲やロケット弾による宿営地への攻撃は13回あった。
 自衛隊が派遣されたのは非戦闘地域だと日本政府は国民に伝えていた。憲法9条で海外での武力行使が禁止されているが、非戦闘地域への派遣であるから、憲法に抵触しないと。
 元統合幕僚長 先崎一氏が語っていた。
 「政治的には非戦闘地域といわれていたが、対テロ戦が実際に行われている地域で、派遣部隊からみれば何が起こってもおかしくない。戦闘地域に臨むという気持ちを原点に置き、危機意識を共有して臨んだ。」
隊員が死亡した場合の対応も極秘に検討していた。宿営地に棺を持ち込んでいたという。
 元統合幕僚長 先崎一氏。
 「先遣隊は、約10個近く棺を準備して持っていって、クウェートサマーワに置いていた。隊員の目に触れないように準備だけはしていた」
派遣された陸海空の自衛隊員は、5年間で延べ1万人。隊員は精神面にも大きな影響を受けていた。NHKの調べでは、帰国後28人が、みずから命を絶っている。28人は、なぜ命を落としたのか。
 隊員は生死に関わる経験をする。それが元で精神が不安定になる。急性ストレス障害を発症していると診断されていた隊員もいる。
 内部資料では、派遣されたおよそ4,000人を対象に行った心理調査の記録では、睡眠障害や不安など心の不調を訴えた隊員は、どの部隊も1割以上いた。中には、3割を超える部隊もあった。
 イラク派遣は、隊員の心に深刻な影響を与えていた。
 イラク派遣後みずから命を絶った28人の隊員たちの家族の哀しみと苦悩。帰国後、精神の不調を訴え自殺した40代の隊員の妻は、夫を支えられなかったことを悔やむ。
 「(自殺した隊員は)1人、2人ではないです。亡くなった人数ではないですけど、亡くなった人数の何十倍の人が苦しんでいるわけで、マイナス面も含めて表に出していかないと、苦しいです。」

 このようなことは全く国民に知らされていなかった。
戦場という場はそれほどまでに隊員の精神を破壊する。襲撃、攻撃にさらされている恐怖、そのうえに攻撃することも行なえる、殺すこともできるとなれば、どれほど精神を破壊するか。

 集団的自衛権を急ピッチで進める安倍政権は、同盟国の戦争に加わることも辞さない。攻撃されて命を失い被害者になり、反撃して命を奪い加害者になる隊員の、精神を擦り減らす苦悩とは大きく隔たったところに首相はいる。