帰還兵はなぜ自殺したのか <2>



 11月11日の新聞記事は「2016年米大統領選 分断大国」という特集だった。そこに2001年、アフガンに第一陣として派遣されたライアン・カウフマン元兵士のことが掲載されている。
 カウフマンさんは、今は故郷のネブラスカ州で退役軍人を支援する活動をしている。
「トウモロコシ畑に囲まれた人口約5万人の町や近隣では、この秋、悲劇が相次いだ。40日間に、4人もの帰還兵が自ら命を絶った。37歳の若い元海兵隊員もいた。
 『アフガンやイラクの帰還者が、いまも深い心の傷に苦しんでいる。次の大統領候補者たちは、このことを忘れてしまっているんじゃないか』。大統領選で帰還兵の現状や、戦争に向き合う国のあり方などが、ほとんど語られないことにも、政治と自分たちとの溝を感じる。‥‥
 カウフマンさんは2003年に一時帰国したが、食事ものどに通らず、眠れない日が続いた。酒におぼれ、マリファナにも手を染めた。
 結局陸軍を除隊し、半年前まで世界最強の米陸軍の一員だった自分が、ホームレスになっていた。支援施設や友人宅を転々とする毎日で、酒に酔って自殺未遂に及んだこともあった。
 退役軍人支援団体の仲間が支えてくれ、立ち直るまで8年の歳月がかかった。」
 アメリカでは毎日約20人の元兵士が自殺している。1年にすると、7300人になる。

 この11月3日に、当時のブッシュ大統領の政権中枢で戦争を主導したドナルド・ラムズフェルドアメリカ国防長官)と、リチャード・アーミテージアメリカ国務副長官)が、日本の最高位の勲章を受章した。
 旭日大綬章は、1875年(明治8年)に制定され、現在の旭日章の基になった。「国家又ハ公共ニ対シ勲績アル者ニ之ヲ賜フ 」と定められている。「勲章の授与基準」(平成15年5月20日閣議決定)には、旭日章は「社会の様々な分野における功績の内容に着目し、顕著な功績を挙げた者を表彰する場合に授与する」とある。

 こんな投書が声の欄に掲載されていた。73歳の男性の意見だった。
 「イラク戦争は『大量破壊兵器保有している』として米国主導で始まったが、後にこの情報は虚偽だったことが判明、大量破壊兵器は見つからなかった。英国のブレア元首相は『我々が受け取った情報が間違っていたという事実を謝罪する』と、米テレビのインタビューで述べている。
 イラク戦争当時、ラムズフェルド氏は国防長官で、誤った情報で始めた戦争の責任者である。アーミテージ氏は、当時国務副長官の要職にあり、イラク復興支援で自衛隊イラク派遣を促した。『大義なき戦争』と呼ばれるイラク戦争で多くの民間人が亡くなり、結果的に過激派組織『イスラム国』(IS)を生みだした。
 日本政府はイラク戦争で米国を支持したが、その本格的な検証に手をつけていない。どのような根拠で二人に勲章を与えたのか。政府は国民に対して、検証結果とともに明らかにすべきだ。」

 この意見、まったくその通りだと思う。イラクをはじめとするアラブ諸国の破壊と混迷の責任、そして今もなお自殺者を生みだしている自国の深い傷への責任、それらをあいまいにしたまま、日本政府はこの二人の栄誉を讃えた。どうしてこういうことが堂々と行われるのか。
  
 フランスで大規模なテロ事件が起こった。憎しみの連鎖、報復の連鎖がつづき、犠牲者がはてしなく生まれてくる。