さてはラン、豆を食べたな

 朝の通勤に急ぐ車が我がもの顔で走る。まったく危険極まりない。地区の上手の子どもたちは、大型道路を横断して、南にコースをとり、隣の地区を通って学校に向かう。下手の子どもたちは、いったん居住区の道を下ってから大型道路に出て、しばらく歩道を降りてから横断し、大きな工場に沿う歩道を歩いていく。大型道路の名称は、豊科大天井岳線という。大天井岳北アルプスの峰の名前だ。常念岳の北隣が横通岳、その隣が大天井岳、そんな山まで道路はついていないのだが、この名前がつけられている。不思議だなと思う。
 朝のウォーキングパトロール、すなわちランちゃん散歩を兼ねた別名「わんわんパトロール」は、小学生の安全見守りにシフトしている。大体6時45分ごろに子どもたちが家を出てくる。誘い合っている。ぼくが見かけるのは、上の地区の子どもたちが7人、下の地区の子どもたちが10人ほどで、いちばん下手の地域の子どもたちの通学コースまでぼくは移動できず、見守りもできない。時間帯がずれていたり、親に車で送ってもらったりしている子もいる。
 子どもたちはランに親しみを持つようになった。ランも子どもたちを見かけるとどんどん近寄っていくものだから、「そんなに引っぱるな」と何度も指示するが効き目がない。今朝子どもたちはランちゃんをなでたり、指示をしたり、「おすわり」「お手」と口々に言う。ランはしょうことなしにチビたちの指示を聞いて、お座りし、手を出している。
 ランは、ウォーキング中にウンチを3回もした。こんなことは今までなかった。朝は1回に決まっている。全部畑の横だったからよかった。ウンチは土に戻す。畑のないところでは新聞紙に取って持って帰る。ウンチは夜中用トイレにもしてあったから、さてはランのやつ、昨日のこぼれた豆をだいぶ食べよったな。
 昨日の午前中はブルーシートを広げて、そこで刈り取った豆の木をたたいて、さやから豆を分離する作業をした。一度に4株ほど束ねて左手にもち、右手に剣道の古い竹刀をもって、左手でしばくように豆の木を打ち下ろし、同時に竹刀で上からぽんぽんたたく。豆はぱらぱらと飛び散る。黒く輝く豆や虫食い豆。ランは、ぼくの背後につながれていた。 ぼくが傍にいるとランは落ち着く。ランはこぼれた豆や、飛んできた豆を食べていた。昨夜から今朝にかけてのウンチ合計4回は、この豆のせいだ。
 昨日は、黒豆たたきは午前中で完了し、午後は学校勤務だった。登校してきたゴンちゃんとペースケは、おしゃべりばかりしていたが、3枚レポートをやりきった。スナフキンも1枚レポートをやった。スナフキンはぼくのつけたニックネーム、ムーミンの物語に登場する。まことにイメージがスナフキンだ。午後5時に終わり、学校から家に帰った。ランは、家に入っていたが、夕方まで積み上げた豆ガラの傍にいたから、その間も、豆を食べていたのかもしれない。
 「ラン、豆食べ過ぎたな。朝ごはんは少なくするよ」
 今日一日、ガラの混じった豆を干す。ランのリードの届くところから、豆と豆ガラを撤去した。