「第一回教育創造ミーティング」<3>

 「教師もまた右に倣え、管理職も右に倣え、教育委員会も右に倣え、そんな教育界では、子どもも右に倣え」と書いたのは、現場には現場のどうしようもない力学が働いていて、学校という世界の中で個々の教師が思いきった改革や実践ができない状況にあるからである。現場で日々自分のやりたいと思う実践が意欲的にできていると思う人もいるだろう。逆に学校の現体制のなかでは思う存分できないと、理想を胸に民間の自由な発想に希望を託す人もいるだろう。
 ぼくは50歳のときに、学校教育体制に悶々としたあげく、新しい道を模索した。選択肢の一つにニイルの研究があった。当時、大阪市立大学の堀真一郎教授がニイル研究会をつくっていた。そこに内地留学して、イギリスの教育学者ニイルとニイルのつくったサマーヒルスクールの研究をやってみよう。そう考えたぼくは堀教授に打診してみた。するとOK。そこで内地留学の論文試験を受けると、大阪市教育委員会の人事担当はNOという結果を出した。理由は一切知らされず。結局内地留学はできず、堀氏からイギリスのサマーヒルスクール研修のお誘いも受けたが、行くことはできなかった。その頃堀氏の胸には「きのくに子どもの村学園」構想があった。
 それから2年後、ぼくは第二の選択肢を選んで、公立中学の教職を去った。
 人生には決定的な違いをもたらす分かれ道がある。そのいずれを選んだかによって、人生はがらりと変わってしまう。人生の大きな節目になるいくつかの分岐点で、そのうちのどれかを選び、とうとう今に至った。

 先日の「教育創造ミーティング」の参加者のなかに、ドイツにも行き、シュタイナー教育を学んできて実践している人がおられた。また、ニイル研究家の堀真一郎氏がつくった「きのくに子どもの村学園」に我が子を通わせている人もいた。
 「世界でいちばん自由な学校」と呼ばれているサマーヒルをつくったニイル研究家、堀真一郎氏は大学を去って、「きのくに子どもの村学園」をつくり、今全国にいくつか誕生させている。
 堀氏は、サマーヒルスクールの学校の規則について、かつてこんなことを書いていた。「きのくに子どもの村学園」を創る以前である。

 <サマーヒルは自由学校だが、たくさんの規則がある。むしろふつうの学校よりも多くの、そして細かい規則があるといってもよい。サマーヒルアナーキーな社会とはまったく違うのだ。ただし、よい規則はたいていそうなのだが、サマーヒルの規則も、生徒を拘束するというよりは、むしろ自分たちの生活を充実させるために、生徒たち自身が長年の経験から作り出したものだ。
 規則違反者や人に迷惑をかけた者の取り扱いは、最近ほとんどの場合「警告」だけである。警告を受けても態度が改まらなければ「強い警告」、さらに「大変強い警告」が与えられる。子どもたちはとても辛抱強い。もちろん「警告」すら与えられないことも多い。ミーティングの場で話題になっただけで十分だというのである。
 このミーティングも授業と同じで、出る出ないは各自の自由であるが、出席率は大変よい。ミーティングが自分たちの共同生活にとって非常に大きな意義をもっていると体で感じているからだ。もっとも、こうしたミーティングの積み重ねによる自治には、一定の割合の年長の、しかもサマーヒルに長くいる生徒の存在が不可欠である。
 子どもたちは、大人の顔色を見て手を上げたり、先生の言うことだからといってしぶしぶ従ったりはしない。子どもの数は、大人の四、五倍もある。だから大人がどんなに大声をはりあげたり、権威を振り回したりしても、いやそうすればするほど、表決では無残な結果に終わる。だから教師も寮母もミーティングにはみんな真面目に参加して真剣に話し合う。そして決められたことにはきちんと従う。こうした大人の真剣な参加がサマーヒルの成功の秘訣だといってよい。>

 1980年代に、小学4年生のときに日本の学校からサマーヒルに入学して6年間暮らした日本人生徒の文章を「世界でいちばん自由な学校」(坂元良江)で読んだことがある。
 <サマーヒルは普通の学校に比べれば、そりゃあずっと自由だろうけれど、そんなに何から何まで自分勝手にできることではないんだ。いくつもの「安全と健康のための規則」があって、最近ではマッチやライターを持つことも禁じられているし、暗くなってから校外に出ることもタバコを吸うことも、酒を飲むこともしてはならない。こういった規則はミーティングでも変更できない。つい最近イナがいくつかの規則については変更したり、新しく作ったりしてほしくないと言った。もちろんみんなは今も以前と同様全員参加のミーティングを開いているし、そこで規則を変更したり新しい規則を作ったりしている。普通何か問題が起こった場合に規則は作られたり変更されたりするんだ。法律というものは紙に書かれていても守られるとは限らないと思う人がいるかもしれない。しかしサマーヒルの規則はちゃんと正直に守られている。もし規則を破るものがいれば注意されるし、それでもきかなければミーティングに持ち込まれる。>
 この文中の「イナ」は校長のイナ・ニイルである。この生徒、拓は、「サマーヒルに行ってよかった、幸運だった」とも記している。