「中学生が書いた 消えた村の記憶と記録」


 先日図書館で、「中学生が書いた 消えた村の記憶と記録 <日本の過疎と廃村の記録>」(黎明書房)というタイトルの本を見つけた。著者名を見て驚いた。「かつやま子どもの村中学校 子どもの村アカデミー著」とある。おお、なんと堀さんが監修している。
 なかを開けてみると、すごい調査と研究の記録だった。それを中学生たちがやっている。この学園の「アカデミー」というのは、中学生たちが行う体験学習のプロジェクトなのだ。

 教壇に先生が立って教えている。生徒たちは座席に座って聴いている。教える人と教えられる人、授業はこういう姿で行われる、明治以後続いてきた学校の原風景である。
 しかし教育の原点というと、この形ではない。
 一人ひとりの子どもが、何を考え、何を想い、何を学ぶか、それが生きて行なわれているか、そこに教育の原点がある。何ものにも支配されず、強制されず、子どもが主体的に学んでいるところに原点がある。
 学校とはどういう世界か。
 理想を追求した人たちが世界にいる。イギリスのニイルはその一人。ニイルのつくった学校がサマーヒル、世界一自由な学校と言われている。その教育論と実践を受け継いだのが堀真一郎さんだった。堀さんは、大阪市立大学の教員だった時に「ニイル研究会」を開いていた。そして1992年、和歌山に「学校法人 きのくに子どもの村学園」を設立した。
 この学校には、試験がない、宿題がない、チャイムが鳴らない、学年の壁がない、体験学習が中心、先生と呼ばれる人がいない、地域社会との間に壁がない。
 福井県勝山市は1954年に生まれた。市の小中学校には500人近くの子どもがいた。ところがその後過疎化が進んだ。1994年、小学生一人になった。とうとう廃校。
 勝山市の市長と教育長は、なんとしても学校を残したいと考えた。そこで「学校法人 きのくに子どもの村学園」に声をかけた。校舎もグラウンドも無償で貸す、子どもの村をつくらないか。かくして1998年、二校目の「かつやま子どもの村」が生まれた。
 その後、「子どもの村」は、福岡県北九州、山梨県南アルプスにもつくられた。

 「中学生が書いた 消えた村の記憶と記録」は、250ページにも及ぶ。その冒頭は、アカデミーの子どもたちのこんな文章で始まっている。

 「2015年夏、私たち『子どもの村アカデミー』というクラスは、世界の子どもというテーマで活動していました。児童労働や病気で苦しんでいる子ども、ストリートチルドレンなどについて調べていたのです。校外にも出かけて、自転車で世界一周をしたミキハウスの坂本達さんや、大阪の釜ヶ崎というところでホームレスの支援活動を行っている『旅路の里』の高崎恵子さんに、世界各地の子どもの生活について話を聞いて情報を集め、その内容を一つの冊子にまとめました。」
 それから三カ月した時に学園長の堀さんから、勝山の近くの村がまたひとつなくなったことを聞く。これまでも消えた村の調査研究は先輩たちがやっていて、2014年に本にもなっていた。その後にまたも村が消えていく。堀さんから情報を得た子どもたちは、その廃村をたずねて研究を開始した。
 この本はその記録である。