この不可解

 会の代表Fさんと一緒に市長に申し入れ書をもっていった。3年前に立ち上げた『安曇野市を考える市民ネットワーク』として。
 安曇野市第三セクター、元三郷村で始まったトマト農場「安曇野菜園」をめぐり起こされた住民訴訟で、行政と市民とが争ってきた。最高裁まで行ったこの裁判は一応の決着がついたものの、行政が市民の会に対して行なった後処理が今の行政の実態を浮き彫りにしている。
 「三郷ベジタブルの経営改善を望む市民の会」は2007年8月、「三郷ベジタブル」(「安曇野菜園」)が決算を粉飾したことにより、市の公金の不当な使われ方がなされているとして住民監査請求を行なった。しかしそれは一部を除いて棄却されたため市民の会は住民訴訟に踏み切る。その結果、「公金による損失補償契約は違法であり無効」という高裁判決が出た。それを受けて市と市議会は第三セクターの精算に向けて動きはじめ、同時に市は最高裁に上告した。最高裁の判決は、第二審の高裁判決を破棄し、一審の地裁判決も取り消し、訴えの却下だった。その根拠は、「安曇野菜園」は2011 年 4月から指定管理者になった農業生産法人に経営や資産を売却し、金融機関の借入金を返済したため、損失補償契約に基づく市の支出の可能性はなくなったからというものであった。
 結局、市民運動によって、問題解決のきっかけが作れたのだったが、市長は形式的敗訴となったこの裁判について、市民組織の「原告」を務めた小林純子(現市議)に対し、訴訟費用の請求をした。
住民訴訟の判決では民事訴訟に準じ、「訴訟費用は敗訴した側の負担とする」とされている。しかし、それを請求するケースは全国的に極々稀であった。全国市民オンブズマン連絡会議は、「住民訴訟の提起や住民監査の請求は、住民に与えられた権利であり、民主主義の根幹をなすものである。形式的敗訴の原告に訴訟費用の支払いを求めることは、今後の住民活動に対する威嚇であり、萎縮効果をもたらし、自治体民主主義の発展を著しく阻害する。」と発表した。
 『安曇野市を考える市民ネットワーク』は、平成24年の12月定例市議会に「住民訴訟等に係わる訴訟費用請求について市の基本方針の見直しを求める請願書」を提出した。市議会は賛成多数でこれを採択した。
 しかし、市長は今回「相殺通知書」なる文書を原告小林純子に送付し、小林議員の報酬から訴訟費用相当額を差し引くという。
 市長は報道機関の取材に対し、「訴訟費用は公費であり、請求には妥当性がある。原告が誰であっても司法の判断に沿って責任ある対応をする」と答えている。市長は市議会の決議を軽視して、「相殺」という行動に出たのだった。
 「安曇野菜園」に対して市は7億円余の施設使用料債権を放棄し、約20億円にも及んだ税金のむだ遣いを行なってきた。この経営責任はいっこうにとられていない。にもかかわらず、市民から訴訟費用をはぎとろうとする。
 このような行政は、市民運動、住民自治の運動を抑圧するものである。「相殺」の撤回を強く求める。これが今日の申し入れの内容だった。
 この不可解の裏に何があるのだろうか。