市議会は住民投票条例制定を求める市民からの要望を否決するか


先日の本会議で市長は、
住民投票条例制定を求める市民からの意見書は有権者の50分の1を超えているから、議会での審議に付すことにするが、これまで民主的な手続きは経てきたから、市長としては条例の制定は必要ないと考える、と断言した。
ぼくはその前に、議員全員に自分の意見を手紙にして庁舎で手交していた。
議員のみなさんに、それをどう読んでいただけたものか、新しい本庁舎を借金してでも80億円で建てるという計画に多数の議員は賛同、5名ほどが条例を制定して市民で決めるという考えに立っているということだが、はたしてどうなるか。今日は本会議で、市民グループの代表、主婦の赤沼さんが意見陳述をすることになっている。21日の本会議で、市議たちの討論が行なわれ、記名投票で採決される。この地方政治の場も、聞けば聞くほど旧態依然とした力学と、「お上意識」に左右されている。

<議員に手渡した手紙は次の文章>

    安曇野市議会議員の皆さんへ
 私は、「新庁舎」住民投票条例制定を求める署名の受任者として、仕事合間の限られた時間に地域住民を訪ね、雨の降る軒端で、あるいは夕暮れの薄暗い玄関先で、安曇野市について思うこと、暮らしや子どもの将来について考えること、いろいろ意見を聞くことができました。実際に動いてみて見えてくるもの感じることが、いろいろありました。その実感は私を励ます力になっています。
 私は安曇野市に奈良から移住してきて、もうすぐ六年です。17歳から日本アルプスに入って信州の山野を跋渉し57年、信州は私の血肉になり、魂のふるさとになっています。
 安曇野に来てから、私は堀金児童館の非常勤指導員、地元高校の非常勤講師などを勤め、有明高原寮の「鐘の鳴る丘」コンサートや早春賦音楽祭での合唱団、この夏は被災地福島の子どもたちを安曇野に招く社会福祉協議会主催のキャンプ支援、市在住外国人への日本語教室での指導(堀金公民館)などに携わってきました。そして今回の新庁舎建設計画についての市民活動に参加したことで、地域の人たちがひじょうに近くなり、同時に安曇野市の課題もたくさん見えてきました。
 住民投票という動機をもって地域を回り、話を聞いていきますと、こんな意見がありました。
 「地域のコミュニケーションが乏しくなり、人びとは自分の家に閉じこもり、住民同士のつながりが薄れてきている。」
 「安曇野の環境は調和がなくなり、NHKのドラマはよかったけれど、ほんとうに美しいと思えない。」
 「市政が遠くなった、合併などしないほうがよかった。」
 「将来、商業ゾーンとともに広域農道沿いが発展するだろう。堀金庁舎を活用すればいいのにどうして?」
 一人暮らしの高齢者には、深い孤独を感じました。ご近所を回っても4人が一人暮らしです。
 また、市民が主権者として主体的に郷土をつくっていこうとする意識が希薄になっているのではないかとも感じました。

 新庁舎建設計画は「既定路線」を当然のこととして、「押せ押せ」ムードで進められています。しかし、私の出会った市民の意識、考えは、そうではありませんでした。
 3.11の大震災以後、人びとの意識は微妙に変わってきています。さらに日本の国の経済と世界的な金融危機などが不安感に拍車をかけています。安曇野市は負債を増やしていって大丈夫なのか、市民の福祉や教育、環境など市民一人ひとりにかかわる課題について、行政はもっと市民の意見に耳を傾け、なさねばならないことがあるのではないか、そういう意見が強くなっています。率直に行って、行政への不信感がくすぶっています。あきらめ感もあります。
 私は本庁舎がいらないとは思いません。しかし、今の計画で押し切って建てた場合、将来に悔いを残すことを危惧します。
 市長、市議会は、これまでの過程に固執するのでなく、未来を展望して新たな視点から構想することに時間をかけるべきだと思います。市民が直接民主主義を行使して行政に参加することを拒否するのでなく、むしろ歓迎し、住民投票をてこにして、市民の意識を鍛えるチャンスにしてほしい、そういうリーダーシップを市議会のみなさんに取っていただきたいと思うのです。それは、市民が自分たちの郷土を美しく住みやすい、愛すべき、誇りうるものにするための一歩になります。
 市民みんなで安曇野市の現実を見つめ、将来を展望して、これから何をすべきか協議する、住民投票はそのスタートにすべきだと思います。

 議員の皆さん一人ひとり、住民投票条例にかかわる案に賛成されるか反対されるか、市民の政治への直接参加を認めるか、認めないか、市民としてそのことに注目します。
 市民一人ひとりの意志を市議会は汲み上げる必要はない、すでにそれは行なってきたということであれば、その事実を具体的に示さなければなりません。しかし、近年の市民の運動(三郷産廃施設、本庁舎についてのアンケート、庁舎建設への請願書などを含めて)は行政から無視され却下されています。すなわち市民による市民のための政治参加が否定されるから、それを求める動きとして湧き起こっているものなのなのです。この根底にある市民の願意を行政者が感じ取れないとすれば、禍根を残すことになります。
 最近、「市長と語る」「新庁舎ワークショップ」などが開催されました。しかし、「既定路線」を進めるため、現計画を本質から問い直す意見は封じ込められています。

 現代社会は混迷のなかにあります。困難な中にあるがゆえに、日本の各地で住民の行政参加が生まれています。

 岩手県大槌町は、震災復興計画を、体育館などで数十人から百人を超える住民が車座になって議論しています。
 仙台市川崎市尼崎市などでは、住民が議会を傍聴し、議員活動を注視する活動を行なっています。
 住民が地域の課題を話し合い、行政に進言する『市民討議会』が増えています。
 住民投票が各地の自治体で行なわれており、東京や大阪では原発を問う住民投票も準備されています。

 安曇野市の庁舎問題を、市議会議員の皆さんの賢明な判断によって、市民がこの安曇野をつくっていく一つの足場にできるように、議員の皆さまの勇気と尽力に期待する所存です。