風邪


 この十数年、風邪を引いたことがない。記憶をたどってみたがない。
それが一昨々日から風邪の症状が出た。ありゃりゃんらんらん、鼻水が出る、ときどき咳が出る、くしゃみも出る、食べものの味があまり感じない。体がだるい。
 数日前、氷点下9度の日に、早朝も歩き、日中も外で作業した。しかし、それで風邪を引くはずがない。どこかでウイルスをもらってきたかな、どこでだれと接触したかな、思い出してみた。息子夫婦に孫たち一緒に、そば屋でソバを食べた。店員が何回かやってきて、ソバを運んできた。郵便局の中に入って、ハガキを箱にほりこんだ。周りに数人の人がいた。朝、ゴミ出しに行って、MさんとKさんと声を交わした。思い出しても風邪の人はいなかったし、ウイルスをもらった可能性なんて分からない。ウイルスは、どこにでもいる。
 老体になってから風邪のウイルスには感染しなかった。が、今回は体の中に侵入してきた。侵入を許す体になってきたということか。
 まずは葛根湯を飲む。家内は、それを水なしで顆粒を少しずつ口に入れて、のどの奥にくっつくようにすると、よく効くそうだよと言った。どこかの医院で職員が風邪を引かないようにそうしていて、実際みんな風邪を引かないというニュースを見たらしい。そこでぼくも葛根湯を水なしで、少しずつ口にほりこんだ。薬草の苦味が、舌の上からのどの奥に入っていって、しばらく苦味が口に残っている。
 背中に「カイロ」を貼る?と家内のすすめで、肩甲骨の間の、風門のツボ辺りに、シャツの上から使い捨てカイロを貼ってもらった。すると、それまで詰まり気味だった鼻がすーっと通ってきた。
 7日は夕食に七草粥をつくってくれた。七草全部は入っていないが、庭の畑にある野菜を刻んで、餅も入れてくれた。この季節、春は近づいているが、寒さはますます厳しくなる。冬の寒さの中でも緑の色の鮮やかな土の命をいただく。七草粥は命、おいしかった。
 息子の嫁の父リキさんが正月に送ってきてくれたドブロクの、「これはうまくいかなかったものだから風呂用に」と入れてあった半リットルほどを家内は風呂の湯に入れ、ドブロク風呂にした。湯に浸かるとなんとなくトローリとしていて、ほんわか香りがいい。ドブロクの麹菌が体に作用して、よく温まる。
 夜は、毛糸の帽子をかぶって寝た。丸刈り頭は冷える。電気の敷き毛布が温かい。2年前までは湯たんぽにしていたが、湯を沸かす手間が省ける。夜中に寝返りを打ってうつぶせ寝になって寝た。朝目が覚めたとき、首の周りに汗をかいていた。
 翌日、家内に風邪の症状が出た。
 「ぼくのがうつったな」
 鼻が詰まる。夜、頭が痛かったと言う。二人とも熱は上がらない。このまま通過してくれるといいが。肺炎菌が肺に入らないように気をつけよう。
 昨夜は、キムチ鍋をつくってくれた。これは温まった。キムチがたっぷり入っていて、ニンニクのかけらもある。野菜とキノコと肉、豆腐にウインナーソーセージ、ぴりりと辛くて、鼻をすすりながら食べた。体が温まり汗が出てきた。これは効いた。
 今日は雪。仕事の日だ。学校へ行く。まだ鼻声だったが、風邪は超えた。家内も風邪は過ぎたようだ。