とし子さんからお呼びがかかったソバ会は午後6時からだった。今日は夫婦で参加する。手ぶらでいいということだったが、「酒を飲む人は自分で持って来て」ということだったから、芋焼酎のパックを持参することにした。家内は、大根とリンゴの千切りにチーズをまぜたサラダをつくって、大皿に入れて持っていくことにした。
外はすっかり暗かった。公民館の中に和室が一室ある。そこに座卓が並び、30人分の席がつくられ、隣の厨房で秀さん夫婦と数人のご婦人が準備していた。大なべに湯が沸いている。とし子さんと共にあや子さんはここでも甲斐甲斐しく動いている。区の寄り合いにはたいていあや子さんの顔がある。特に役職があるわけではないが、お世話に徹する人として頼りにされ、自分でも役にたとうという使命感の強い人で、かけがえのない存在になっている。参加者は男性は10人、女性が多い。
知らない人が多かった。男たちがかたまって座った。ビールが出てきた。
「焼酎もってきましたが、飲みますか」
「いや、もうこのごろ飲まないね」
と前に座った青柳さん。あれまあ、そうかね。
「じゃ、長瀬さん、どうですか」
「私は飲めないんですよ」
ふーん、どうなってんの。
「じゃ武さん、いっぱい行きますか」
「や、私は8月に手術したんで、飲まない」
「えっ、手術?」
「ガンを切除したんですよ」
「えーっ」
そんなこと全く知らなかった。武さん、その経過を詳しく話してくれた。
人間ドックで見つかったのだという。
「人間ドックですかあ、ぼくは入ったことがない」
「やっぱりドックへ入ったほうがいいですよ」
武さんはぽんとぼくの肩をたたいた。ぼくはガン検診は全くしていない。
少しビールが回ったところで、いよいよ秀さんが家で打ってきたソバをゆがく。厨房のガスコンロに大なべがかかり、湯がぐらぐら沸いていた。秀さんは、打ってきたソバを湯の中に入れる。ソバは熱湯の中でいったん沈んでいたが、湯がかれて浮き上がってくる。
「浮いてきたら15秒、笊ですくいとって」
と水に移しいれる。見ていた青柳さんが、
「この水も大事なんですよ」
という。
「すくいとるとき、箸を使うと切れ切れになってしまいますよ」
と秀さん。なるほど、そういうことか。
出来上がった新ソバ、竹のざるに入れられて、座席に順に配られた。露にネギ、大根おろし、本ワサビを入れて、ソバを食べる。
ぼくは、通ではないから、ソバの味がどうのこうのと言うことができないが、結構おいしいソバだなとは思った。ソバはおかわりも出て二枚食べた。持ち寄りのお漬物や佃煮、煮物や果物も回ってきて、次第に満腹になった。
惜しいことに本日は会話は満腹まではいかなかった。みなさんより早く引き上げたせいでもある。