原発の廃炉 

 近い将来、危険がわが身に及ぶことが予測されたら、だれでも真剣になる。将来の、自分の子ども、孫の代が危ないと知ったら、やはり真剣に考える。では、人間は、どれぐらい未来まで想像して真剣になれるだろうか。
 100年かけて取り組むというイギリスの原子力発電所廃炉事業を取材した記事を読んだ。(朝日新聞 1・5)
 トラウスフィニス原発は、1965年から26年間稼動してきたが、その後運転をストップし閉鎖、原子炉内の燃料を2年かけて取り出し、1995年から本格的廃炉作業に入っている。そこでは千人近くの作業員が働いている。これから3年後にようやく汚染を取り除く作業の大部分が終わり、つづいて原子炉をコンクリートで固めて、長期保管に耐えうるようにする。使用済み燃料プールは削って、箱型のコンクリートケースに入れ、巨大保管施設に入れて保管する。60年間現場で管理を続け、それから建物を壊して原子炉を取り出す。更地にするのは2083年、総費用は約8億ポンド(約1340億円)。これは全くの机上の計算だから、実際にやってみたらそうはいかなかったという結果になることも予測のうちである。放射能がなくなるまでは、さらに気の遠くなるほどの年月がかかる。
 イギリスでは、20地区で廃炉が進んでいるそうだ。セラフィールドでの廃炉、除染は、約3.95兆円、作業が終わるのは2120年の予定とか。記事に6箇所の表が載っており、その廃炉の予算を全部足すと、4兆6457円になる。情報を公開し、毎年進捗情報を詳しく発表している。

 スウェーデンでは、使用済燃料の高レベル放射性廃棄物は、地下約500mの深さの結晶質岩中に地層処分する。
 フィンランドでは、地下300〜1000メートルの地層に埋める方針。大量の放射能が無害になるとされる10万年後まで保管する。
 無害になるまで“10万年”。そういう未来への予測を立てて政策を進めていくフィンランドはすごい。
 10万年後は次の氷河期をへて別の人類がいて、危険標識の言葉は通じないかもという人がいる。小泉元首相も、そのようなことを言っていた。想像できない未来の冗談である。

 「未来を予測して、今何をすべきか」、この思考ができて、実行する者が政治家にならなければ、これほど建設と破壊が巨大化する現代では地球規模で取り返しのつかないことになる。
 日本における原子力発電は、1954年(昭和29)に始まる。原子力研究開発予算が国会に提出され、1955年(昭和30)原子力基本法が成立した。今年で60年である。
 この甚大な原発事故が起こることを予測した政治家がいたか。「たぶん大丈夫」思考でやってきた政治家たちだ。そして今直、それでやっている。今しか見ない。
 世界中に破壊をもたらす文明。庶民の暮らしや健康も危険にさらして技術が社会を貫いていく。