年の暮れは忙しい

 「今日は忙しいですか」
 電話のNさんの声が遠慮がちだった。
 「忙しいと言えば忙しい、忙しくないと言えば忙しくないですが、何でしょう」
 「前に言っていた庭の剪定木、取りにこられませんか」
 そういうことだった。日本語教室で一緒に外国人に日本語指導をしているN夫人だった。以前、庭の剪定木があると聞いて、薪にいただきますと言っておいたのを思い出した。
 年の暮れでやることはいっぱいある。工房の北側玄関ひさしの上に、雪が本格的に積もるまでに、シートをかぶせておきたいから、そのシートを買ってきて取り付ける仕事がある。北側のひさしは木のひさしで、雪が積もると落下せず、凍結していつまでも残る。それが少し融けると木のひさしに浸透する。これは何とかしなければと考えて、シートをかぶせることを思いついた。すす払いもやらんといかん。しめなわを飾らねばならない。年賀状、まだ書いていない。明日中に郵便局へ持っていかないと正月に届かない。息子が誕生日に贈ってくれたCDのミニコンポを居間の壁に取り付けるのもある。野菜を畑から取ってくる。本を図書館へ返しにいく。家中掃除もしなければ。天井にクモの巣があちこちにあるから取ってほしいと家内が言う。小さなクモなんだが、クモも生きているんだから、一緒に住んでいてもええじゃないかと言うが、そうはいかないらしい。
 まあ、いろいろあるが、薪はいただきたい、ということで、荷物も載せられる軽自動車でNさん宅へ行った。木は2メートルほどに切断してあったから助手席の背もたれを倒すと積める。Nさんも手伝ってくれて、天井まで全部積むことができた。ケヤキと柿の剪定木で、よく乾燥していた。Nさんの庭は広い。昔の蔵もある。
 「来年またよろしく」とNさん、
 「こちらこそ、よろしく」
 Nさんにとっては、剪定木の処分はやっかいなことだ。
 木をもらい、ついでにホームセンターと図書館と電気店に行って、帰って来た。
 庭のバケツの氷は分厚くなった。畑のニンニクは、球根を植える時期が大幅に遅れたために、地温が15度以上にならず、芽が出てこなかった。そこで、ビニールトンネルで覆い、土を暖めてきた。今日見てみたら、いくつか芽が出ていた。適期に植えたニンニクならもう大きく育っているものを、この芽は無事育って球根ができるかどうか、見守ることにした。鉢に挿し木したら芽が出たハコネウツギと紅花のムクゲを秋の終わりに地植えした。これも失敗だった。土が凍結したため根付かず、枯れている。もう少し大きくなるまで部屋の中に置いて、春に植えてやったらよかった。
 今朝の気温はマイナス7度だった。手が回らないのは明日に回したが、なんとか全部やることができそうだ。
 今年のぼくのオリジナル締め縄はリース風、ワラを三つ縒りして円く輪にし、そこに紅白のナンテン、松葉、赤唐辛子などをくっつけた。
 年賀状は、すでに日の出の写真も入れ、文章も長々と入れたものを作ってあったから、後は、手書きで一人ひとり、その人への文章を書き添えて、宛名を書く。書き終わった束を郵便局へ持っていったら、局の前で走りまわっている男の人がいる。胸に「年賀状受け取ります」と書いたゼッケンをつけた郵便局職員だった。にこにこ笑顔で、年賀状を受け取り、「車に気をつけて」とか言いながら持っている収納袋に入れた。