朝の道

チャコとチコのママが脇道から出てきて、前を行く。
豆シバのチャコとマルチーズのチコ。
小さなチコが好きなランは、追いつこうとまっしぐら。
「久しぶりですねえ」
「久しぶりだね」
ランは、チャコを無視してチコのところに行く。
「トウモロコシは二本立てがいいですか、一本立てがいいですか」
一箇所に三粒の種を播けば三本の芽が出る。
間引いて一箇所一本にしたらいいか、二本にしたらいいか。
「わたしはこれまで二本にしてきただがね。一本の方がいいと聞いたで、今年は一本」
ぼくの畑は、去年一本仕立て、今年は二本にしてある。
あちこち畑を観察したら、二本仕立てが多いからそうした。
はたしてどちらがいいのだろう。


別れて常念岳を前方はるかに見ながら、神社を過ぎて、石屋を通り過ぎ、
家の前に植えた花を見ているおばさんにあいさつ、
「このあたりにバラが美しい庭をつくっている人いますか」
おばさん、ニコニコ、いい顔だ。
「バラ? 聞かないねえ」
山麓線の下に、花いっぱいの庭を作っている人がいますね」
「あの庭はすごいですねえ」
「すごいですねえ。この近くにもたくさんのバラを咲かせている人がいると聞いたんですが」
「この近くには、そんな家ないですよ」
おばさんの旦那は、板金屋。


道を下ってきたら、庭の植え込みを刈り込んでいる人がいる。
「きれいに刈りましたねえ」
「わたしは、庭師じゃないでね。左官屋でね」
「でも見事にどの木も整枝してありますねえ」
「岩原の庭師に教えてもらったでねえ」
松の剪定の話は微細にわたった。
我が家の松も「みどり摘み」しなければ。
松の新芽の伸びてきたのを折り取る剪定を、「みどり摘み」と呼ぶ。


道を曲がり、坂道を下る。
男の子が大きくふくらんだ白いポリ袋を三つもって、やってきた。
ブルーベリーの木をたくさん植えている家の子だ。
幼児のころからよく見かけて、話したこともある。
「もう5年生になったかい?」
「ううん、4年生」
「そうかい、4年生。それ何持ってるの?」
「ゴミステーションに出すの」
ポリ袋の中身は、砕いた発泡スチロール
「学校行くついでに、出していくんだね」
「うん」
男の子の家にはネコがいた。
「ネコ、元気?」
「うん、元気」


道端で畑を借りて耕している、いつもの夫婦。
先日は、ピーナツを植えていた。
今朝も涼しい間に畑仕事をしている。
「トウモロコシは二本仕立てがいいですか、一本仕立てがいいですか」
「わたしは、二本仕立てがいいと聞いたから、二本です」
奥さんが答えた。
今朝の旦那は口数が少ない。


今年は今のまま、二本仕立てで行こう。