新雪の道

朝の山はきれいに晴れた。夜中に新雪が少し積もっている。
暮れの雪がすっかり融けた道に、昨夜の寒気がまたもたらした雪はさらさらだ。ランをつれて新雪の道を歩く。
車のわだちの跡がある。数台走っていったらしい。
三人の足跡がある。
一人の足跡の横に、犬の足跡がある。お向かいの犬のマミだろう。飼い主のミヨコさんは高齢で脚も衰えたから、近所のミヤタさんがマミの散歩係をしている。今朝はミヤタさん、早起きだったな。
大きな足跡がある。点々と続いている。靴の大きさは、ぼくのより大きい。28センチほどもある。大またで歩いている。歩幅は60センチか70センチぐらいはある。
ぼくも大またで、その足跡に合わせて歩いてみた。けれど、数歩歩いて、もうその歩幅では続けられない。靴裏のゴムの形もくっきりと現れ、脚を後ろの蹴りだした跡がないから、ジョギングではない。よほどの巨人が夜明けにここを歩いて行ったらしい、のっしのっしと。いったい、どこのだれだろう。
途中の道から、新しい足跡が合流した。それも犬の足跡が横に付いている。犬の足跡は、ランのよりも大きい。歩幅も大きい。どうやら今朝、唐沢さんは、ゴールデンのカイちゃんと早い散歩をしたようだ。
人の足跡のない道に来た。足跡のない道を歩くのは気持ちがいい。途中の田んぼから、一本の点線が入ってきた。足跡はぼくと同じ進行方向に続いていく。何かの動物の足跡だ。足跡をつなぐと一本の点線になるから、野生動物だ。キツネかな。ひょっとすると、ネコかもしれないよ。
山の新雪では、よくウサギの足跡に出会った。ウサギの足跡は、前足と後ろ足の跡を見れば、すぐに分かる。


この正月、山は荒れた。西穂高岳大天井岳明神岳で遭難事故があった。
晴れた空にエンジン音が響いている。ヘリコプターが救助に向かっている。燃えるゴミを集積場に出しに行ったら、いつものザック姿でストックをついてくるXさんに会った。xさんはヘリコプターを眼で追いながら、
「救助したらしいですよ。最近は簡単にケイタイで連絡できるから、救助の要請を安易にするようですねえ」
と言った。燕岳の山小屋は冬も営業しているとのこと、へえー、通年営業ですか。
「食料はヘリコプターで運んでいるのですよ。また山に行ってくださいよ」
「行きたいですねえ。」
でも、今はもう新雪の山に行くことは難しい。Xさんはパラグライダーをやってきた人だ。彼のひげも白い。