コウモリ

 どこから入ったのか、工房の床でコウモリが死んでいた。夏に一匹、おととい一匹、昨年も入って死んでいた、その一匹は干からびていた。
窓も出入り口も閉まっていて、すき間はないはずだが、入っている。
 工房の天井のどこかにすき間があるかい、いやいや、ない。
 ぼくの造作です、とんとん板をはりつめました。
 でも、コウモリは入って死んでいた。
 手のひらに載るほどの小さなコウモリ、その死骸という事実。どこかに入ってくるところがある。工房の天井を見上げて、探した。すき間はどこだ。ネズミの頭ほどのすき間があれば通れるぞ。
 あそこかな、目に留まったのは薪ストーブの煙突の上。
薪ストーブの煙突は、屋根に穴を明けて通した。器具をつかって煙突を固定し、屋根の上の煙突周りを雨が入らないように、ガルバリウム鋼板で覆った。
 部屋の内側の煙突周りは、熱が伝わらないように、3、4センチのすき間を開けて、覆った。ぼくひとりの、初めてのストーブ工事、工夫に 工夫をかさねて開けたわずかなすき間。
 そこのすき間をコウモリはくぐりぬけた、たぶん。
 それなら、何のためにコウモリは入ってきた?
 ねぐらを見つけるため?

 コウモリは、夕闇せまると、飛びまわる。
 昼間はどこかに潜んでいる。暗い洞窟や樹洞に逆さにぶら下がっているとか。
 では、洞窟や樹洞はどこにある? ここらのどこにもそれはありそうにない。山の森にそれはあるのか。


 今朝はゴミ当番、集積所に行った。集積所の前に椅子を出して良子さんが座っていた。
 コウモリがねえ、と話したら、
 「私の家にもコウモリ入って、ミイラになっていましたよ。古家のほうの二階、わたしのベッドの下に、いまはこの部屋使ってないんだけどね。天井もきっちり張ってある。どこにも入り口はないのにね」
 ついでに良子さんの言うことにゃ、
 うちの田んぼの水口で、タヌキが一匹死んでいた。まるまる太った子ダヌキで、畑に埋めて、土を盛り、お墓にして石をおいた。
 ところが翌日見に行くと、タヌキのお墓は掘り返され、タヌキの毛だけが残っていた。
 「それ、キツネのしわざだよ」


 夕暮れの闇、コウモリが飛ぶ。
 顔も姿も、おぼろに黒く、小さな影が、ヒラヒラヒラと。
 だれもしっかり確認できない飛行体、
 昼から夜へ移り行く、すき間の時間、
 神隠しの時間、
 ひっそり、音もなく、コウモリが飛ぶ。


 この世からあの世へ、
 移り行く幽冥の時間を、
 ひっそり、音もなく、人もまた。