これは何の木だろう


 植木鉢の観葉植物、アビスの根元近くから、芽が出てきて、大きくなってきた。アビスはシダの仲間、葉が美しい。アビスを植えてあるところにしゃしゃり出てきた芽は邪魔者だ。だが、その芽は草ではなく、樹木のようだ。何だろうかな。引っこ抜かないでそのまま観察することにした。
 鉢は冬の間は室内、夏の間は家の外に置いてある。芽は伸びて、5センチになり、10センチになり、枝も出てきて、とうとうアビスの背丈を越して30センチを超えた。葉っぱもたくさんついている。肝心の鉢の主、アビスは押されるように体が傾いてしまい、勢いもない。軒を貸して母屋をとられそうなアビスだ。このまま二つを同居させておくことはできない。
 いったいこの木は何の木だろう。葉っぱは見覚えがある。ハート型の先が細くなっている。ポプラに似ているなと最初思った。しかし自然に生えてきたということは、どこかから種が飛んできたか、種が落とされたかしたからだろう。ポプラの木なんて、この辺りどこにもない。
 秋になってから、その鉢のすぐ近くの地面から同じような木がもう一本、芽を出し、10センチばかりに育っているのを発見した。同じところから二本も木が芽を出すということは、その木の種は同時にこの辺りに落とされたと考えられる。何の木の種が、どこからどうしてやってきたのか、ますます疑問が膨らんだ。
 4年ほど前、家の裏に桂の木を植えた。それは順調に伸びて3メートルを超えている。その桂かな、と思ったが、葉を比べてみると、これはあきらかに違う。桂の木は、もっと丸々したハートで、葉の周りのぎざぎざが小さい。
 そうだ、あの本で調べてみよう、思いついたのは、「葉による野生植物の検索図鑑」(阿部正敏 誠文堂新光社)。この本には、ぎっしりどのページにも野生植物の葉のスケッチが分類されて掲載されている。
 植木鉢から2枚葉をちぎってきて調べていくと、シラカンバ、ダケカンバ、ウダイカンバの葉が似ていることが分かった。とたんにはっと、気がついた。白樺だ。白樺の芽が出てきたのだ。去年春に枯れてしまった白樺、今は切り倒してしまったが、それは今芽が生えてきたところから2メートルほどのところに白い幹を見せて、茂っていた。7年前、苗を買ってきて植えた白樺はみるみる大きくなり、電線に届かないか心配になるほどだった。ところが新緑の季節に、無数のアブラムシが葉に群がった。さらにカミキリムシが木のなかに卵を産みつけ、木の中が空洞になっていった。白樺は無残に枯れてしまった。
 白樺は亜高山地帯の植物だ。温暖化の進んでいる、いろんな虫のいるところでは、無理なのかもしれない。その白樺が種を落としていた。落とした種が今年、芽を出した。短い生涯だった我が家の白樺、それがちゃんと子孫を残した。
 この二本の幼樹、育てよう。だが、白樺は森の中でこそ育つ。環境は厳しい。気候は変えられないが、土の環境は変えられる。最初の白樺を植えた場所、その土は悪かった。保水力もなかった。白樺は丈夫な木にならなかった。それを考慮して育ててみよう。