日本の行方

 選挙で誰に投票するか決めるとき、「この人、この党に投票するのは、こういう未来を望むから」という明確なビジョンと思索が存在していたか、存在していたとしたらそれはどんな思考であったのか。
 振り返ってみると、多くの人の投票行為に現れたのは「思い」であって、「考え」ではなかったのではないか。
 「日本を取り戻す」というスローガンがポスターにあった。この「日本」とはどんな日本なのか。明治の日本なのか、昭和初期の日本なのか、高度経済成長期の日本なのか、この「日本」に込めたイメージは人それぞれ異なる。あいまいな表現である。しかし、なんとなく「古き佳き時代」の「日本」がイメージされる。すなわちノスタルジア、「思い」であって、「考え」ではない。
 かくして選挙の日、思いの一票は投じられた。「私の思い」の一票は、集まると巨大な雪崩となった。小さな雪の結晶の一片一片は降り積もり雪崩となると、木々をなぎ倒し、建物を吹き飛ばす。

 昨年、2012年9月19日、脱原発依存に向けて、「今後のエネルギー・環境政策について」の閣議決定が行なわれた。その中身は、「革新的エネルギー・環境戦略」であった。そこに、2030年代に原発を脱するという方針が画かれ、原発に依存しない社会に向けての三つの原則が盛り込まれていた。
 1、40年という運転制限制を厳格に適用する。
 2、原子力規制委員会の安全確認を得たもののみ、再稼動を認める。
 3、原発の新設増設を行なわない。
 環境戦略の策定にあたって、政府はこの三つの選択肢を国民に提示して、広く意見を聴取する方法をとった。
 2030年時点で、総発電量に占める原発の量は、0%、15%、20%〜25%、のうちのどれを選択するか。
 これに対する国民からのパブリックコメントは8万124件寄せられた。結果は、87%の人が0(ゼロ)を選んだ。
 また無作為に抽出した国民にアンケートを行ない、さらに充分な専門的情報を提供して、討論型世論調査を実施した。討論フォーラムの参加者は285名。その調査の結果は、どうなったか。
 A,フォーラム前の電話調査
 B,フォーラム会場での討論前調査
 C,討論後の調査
 この三段階を経るにつれて、原発0(ゼロ)を支持する人が増加し、
 A段階 32.6%、
 B段階 41.1%
 C段階 46.7%
になった。
 こうして、国家戦略室は、「国民的議論に関する検証会合」を開催した上で、2030年代原発稼動ゼロを目指すことにしたのである。
それが今、事態はどうなっているか、これからどうなっていきつつあるか。
 「日本を取り戻す」のスローガンは、原発推進依存の日本を取り戻すということなのか。
 再び元の木阿弥になりつつあるのである。自然エネルギーの研究開発への着実な歩みは停滞するだろう。そうした日本に、どんな未来が待っているだろうか。20年後の日本、50年後の日本、100年後の日本はどんな日本なのか。
 必要な、確かな情報を得て、国民が意見を交わし対話し討議し、未来を画く、そのビジョンのもとに国政を選択する、そういう政治参加のある国に未来は開かれる。実態はそれとはほど遠い日本の姿である。