市民運動の価値


 

 烏川渓谷の入り口である須佐渡の辺り、アカマツの高い幹が並び立つ林のなかに変なものを見つけた。アカマツ林は、木の高さが10メール以上はあるだろうか。幹の先端部分だけ枝と葉が残っていて、下枝が全部なくなっている。さらに下草や潅木も生えていないから林の奥のほうを見通すことが出来る。見ると林のあちこちに、2メートルほどの長さに伐った幹を積み上げ、ビニール布で覆ったものがある。初め見たとき、不審なものがあると思ったのだが、これはたぶん松枯れ病になった木を伐採して木の中にいる虫を殺しているのではないかと推察した。
松枯れ問題が昨日の「安曇野市を考える市民ネットワーク」の総会でも取り上げられた。ビニールで覆われた不審物は、やはり松枯れ病に侵された木を薬剤によって処理しているものだと分かった。
 ここ数年、安曇野市明科近辺のアカマツ林は松枯れ病による被害が深刻になっている。完全に立ち枯れている木がいたるところに目に付く。マツクイムシの名で知られる全国的な被害では、西日本のアカマツは全滅状態だという。マツノマダラカミキリによって、松を枯らすマツノザイセンチュウが媒介されていくこの松枯れ現象は、薬剤の空中散布などいろんな対策も取られたが、結局防ぐことは出来なかった。松本市や周辺町村でも薬剤散布を行ない、これまで薬剤の空中散布が健康に被害をもたらすことから反対運動も続いている。ミツバチが激減しているのもそのせいだという。
 森林を仕事場にしてきた諌山さんは、センチュウの侵入したアカマツを燃料に使うことを考え、安曇野市に提案して施設の炉でアカマツを燃す計画を進めている。しかし、大量のアカマツを利用することは難しい。手をこまねいているうちにアカマツ被害はますます深刻になり、安曇野では穂高地区、堀金、三郷地区に広がっている。須佐渡で見たのは、やはり松枯れ病で、すでにアルプス公園周辺のアカマツも危険であるということだ。遷移の摂理でいずれアカマツは枯れ、別の木々の森になるであろうから、広葉樹の森づくりを将来像に描いて今やるべきことを進めていくことだと考える。
 しかし今問題なのは、行政の担当プロが存在せず、後手後手になっていくことだ。
 このような行政の手立ての遅れは松枯れ問題だけでなく、いろんな部署で起こっていることも、討論された。
 三郷の産廃施設建設に対する住民の運動も、行政の怠慢と住民軽視の結果である。市民をないがしろにして、反対運動を押さえ込もうとしてきたこの9年間の、住民の不信は大きい。
 ある問題があり、立ち上がった市民が市民のために運動を起こす。それには大きなエネルギーが要る。費用も自分持ちである。市民は自分の生活を犠牲にして運動をしていても、行政は市民の痛みに鈍感であり、市民運動の存在価値を無視することがしばしばである。市民運動が民主主義の進展に欠かせないものだということを認識しない行政は、市民運動を迷惑なものと思いこそすれ、ありがたいことであると考えることはない。そのような行政だから、なおさら市民運動が必要になる。
 三郷ベジタブルの問題、産廃施設問題、新本庁舎建設問題、住民投票請求問題等々、行政の実態や市民運動を押さえ込む権力構造をつぶさに見てきた者たちの発言は重かった。