秀さんが、取りにおいで、と言ってくれていたネギ苗をもらいに行った。
秀さんはもう植えた、その余り物、全部もらえば数百本、
半分もらって帰った。
日が暮れるまでに、植えられるだけ植えてしまおう。
三角鍬で溝を掘り、元肥の鶏糞を入れた。
ネギを植えていたら、クルミの木のおばさんが、田んぼの水見から戻ってきた。
「冷えてきましたよ。もう上がりましょ」
「ありがとさんです。日が沈むと急に冷えますね」
畑の北側に家並みがあり、床屋さんがある。
その辺りから、子どもの声が上がった。
甲高い、元気にあふれた数人の子どもの遊ぶ声。
「サナダマル、サナダマル」
なんだろう、真田丸かい。
声が飛び交い、四人の子がそれぞれ長い木の枝を手にして走ってくる。
「クルミの木に登ろか」
「あそこに登ろ」
四人は、積み上げられた土木工事の残土の山に登った。
つづいて二人の子が木の枝をもってやってきた。
六人は、残土の山を舞台にして、チャンチャンバラバラ、駆け下り駆け上がり、
叫び声がこだまし、隠れては現れ、現れては隠れ、忍者のように走り回る。
追いかけ、逃げ、木の枝で切り結び、
おう、おう、チャンバラごっこが生きている。
ぼくはネギを植える手を休めず、子どもらの声を耳を働かせて聞いている。
「サナダマル、サナダマル」
また叫んでいる。何だろう、真田幸村のことかい。
逃げてくる子が畑のあぜを駆けて来て、ネギの畝間を通っていった。
「チャンバラごっこかい」
「うん。」
「ルールあるのかい」
「三回切られたら、ゆうれいになる。ゆうれいになったら、こうげきできないよ」
床屋の辺りから、野太い声がした。
「おうい、五時半だよう」
お父さんの声だな。
「だいじょうぶ。六時までだいじょうぶ」
子どもの一人が答え、父親の声はそれっきり。
「ゆうれいはねえ、こうしようよ」
子どもの一人が叫んでいる。
ゆうれいを生き返らせる方法らしい。
遊びは創作、子どもらは遊びながらストーリィを変えていく。
日が常念岳に沈んで、残照が明るい。
チャンバラごっこは続いている。
シーラカンスの子どもたちが生きている。
日本遺産、生きた化石が遊んでいる。