種ジャガイモを5畝全部植えきった。種ジャガは北海道でつくられたもので、元肥は、秋男さんがもってきてくれた鶏糞を入れた。
伐採したクルミの木を薪ストーブの薪にいただけることになり、早く木を薪の長さに分断したいと思いながら、次々と入ってくる仕事に追われて、手をつけることができない。ジャガイモとネギを植えていたら、クルミの家のおばさんが、声をかけてくれる。
「よくがんばってるねえ」
「早く木を片付けたいのですが、できるだけ急ぎます」
「いいよ、いいよ、一ヶ月でも一年でも、できるときにしましょ」
そういうわけにはいかない、急ぐつもりだが、おばさんにそう言われると、ほっとする。おばさんと言っても、年はぼくと同じぐらいか、あるいは年上かもしれない。ご亭主も気のいい人で、動物好きだということから人柄が分かる。
「山羊と七面鳥とウコッケイを飼っておられるんですねえ」
「うちの人が、飼うのが好きでねえ」
「山羊は畦の草、食べてくれるでしょう。お乳は飲みました?」
「何度か飲みましたけどね、やっぱり牛乳がいいでねえ、牛乳飲んでます」
「山羊乳はちょっと匂いや味に癖がありますからねえ」
おばさん御夫婦はよく働かれる。今年、人から頼まれて、新たな田んぼに稲を植えることになった。おじさんは田んぼに水を引こうとしたら、地面に埋めた水路の土管がつまっていた。たいへんだねえ、どうするかねえ、おじさんは一人、大きな石を取り除き、土の中の土管をスコップで掘って修繕した。
「大きい石を運ぶとき、声をかけてくださいね」
と言って、ぼくは自分の畑をしていたら、おじさんは一人でやってしまった。おじさんも相当なお年だ。80歳行ってるだろうか。
ネギもジャガイモも完了したから、日が沈むまでの時間、薪作りをした。まだ充分慣れていないチェーンソーを使う。伐採されたクルミの樹は、おおざっぱに枝や幹が切られていて、無造作に積み上げられている。枝がからまり、薪にちょうどの、手ごろな太さの枝を引っ張り出すのは力が要る。エンジン音を響かせて40センチほどの長さに切っていった。
チェーンソーのエンジンから排気ガスが出る。それがのどに少し影響する。風があればガスも飛ぶのだが、夕方は風が収まっていたから、口とチェーンソーとの距離が近いために、どうしてもいくらかは排気ガスを吸ってしまう。吸えばやはりのどが痛い。
夕日が常念岳の向こうに沈みかけた。おばさんは、エンドウの畝のところで何かしておられる。あいさつして、帰ろう。
「すみません、少しずつぼちぼちですが、片付けます。迷惑をかけます」
「なあに、いいですよ、ゆっくりやりましょ。細い枝は、別にして積んでおいてもらったら、こちらで燃やしますから」
「ありがとうございます。できた薪はまた取りに来ますから」
帽子を脱いで頭を下げた。私の頭はこんな頭ですよー。散髪したての青い坊主頭が冷たくなった。