北海道から新しい先生

 「北海道から来ました」
 日曜日夜、日本語教室に行くと一人のご婦人が、ストーブの前にお尻を暖めるように立っておられた。公民館でのこのボランティア活動の存在を知った、自分にもやれるかなと、今日初めて外国人の学習の様子を見に来た、とおっしゃる。昨年北海道の留萌から夫婦で移住してきた人だった。早速輪になって自己紹介をし団欒する。4人の指導者の輪のなかに、中国とベトナムの生徒4人も加わった。
 「北海道で骨を埋めるつもりで、夫婦で暮らしてきたんですよ。昔は小学校の教員もしていたんですがやめて、最近まで病院のボランティアしてきたんです。ところが主人が心筋梗塞脳梗塞をやって、体不自由になって、そこへもってきて留萌は冬は雪が深いし、雪かきはたいへんで、私の腕はもう痛くて動かなくなってくるし、これではもうやっていけないと」
 娘さんが結婚して安曇野に住んでいる。そこで娘の近くにと移住してきた。北海道より暮らしやすいかなと、この冬暮らしてみたら、
 「もう寒くて寒くて、寒さが違うんですよ。ここは床からしんしんと冷えてくるんです。北海道は外が寒くても部屋の中はあったかくてね、それにこちらは雪が多くて、雪かきの道具はまだ持っていないんですよ、いらないだろうと思って、でも、こんなところだとは思わなかったから、もうショックでショックで」
 「いやあ、今年は特に寒かったし、雪が多かったですね。でもいつもこんなんじゃないですよ」
 「たしかに、今年はひどかったですよ。北海道はマイナスどれくらいでした?」
 「いちばん低いときでマイナス15度くらいでしたね。以前は20度くらいいきましたが」
 「安曇野もマイナス13度ぐらいまで下がりましたね」
 と、この地で生まれ育った二人の先生が言う。
 「北海道の夏はどうでした?」
 「夏は22、3度くらいでした」
 「いいですねえ。ここは暑いですよ。30度を超えます」
 「それでも私の家はクーラーはいれていないですよ」
 「とても暑い日もあるけれど、エアコンなしでいけますからね」
 そこから4人の生徒も話に加わって、中国の洛陽、青島の気温、ベトナムの気温が出た。
 「ベトナムのいちばん暑いときは、40度です」
 「わたしのふるさと洛陽は、32度ぐらい」
 「青島もおなじぐらい」
 ぼくは、奈良の夏の暑さを話した。毎年何回かやってくる、眠るに眠られぬ湿度の高さと猛烈な暑さ、そのような暑さは安曇野ではない。それでもこの地の夏の暑さは厳しく紫外線はきつい。
 住み慣れた土地を離れて新しい土地で老後を迎える。それはぼくら夫婦も同じだった。苦しいことつらいこともあるけれど、楽しみ、やりがいを見つけていきましょうよ、力をあわせて。
 こうして20分ほどの団欒、みんなで心を通わせ打ち解けあって、今日の予定に入った。その後は、日本の着物を着るという体験。中国人の女性二人は着物を着る体験をすでにやっている。この日はベトナムの青年が着物を着る。それが見たくて、中国人の女性二人も「見たい、見たい」と一緒に着付けの場所へ出かけていった。新しい先生も、一緒に車に乗って、二台の車で出かけた。