董さんのスピーチ「春節」

 日本語教室の董さんが、安曇野のスピーチコンテストで発表したのは、中国の春節の話だった。中国の春節旧正月である。春節、そのときばかりは、故郷を遠く離れている人も、何を置いても実家に帰る。背中に両手に、持てるだけ持って列車や長距離バスに乗り込む。どこもかしこも超満員である。
 どの家でも春節には餃子(ぎょうざ)を食べる。董さんは、春節の餃子のことを話した。審査の結果は受賞しなかった。コンテストから何日かして、日本語教室のとき、まだ聞いていなかったスピーチをもう一度してもらった。董さんは、文章をよくおぼえていて、もうこの場で賞をあげたいと思った。その原稿をここに書く。

             春節
 2月9日は中国の春節でした。中国では春節のお祝いに必ず餃子を食べます。それは普段の餃子とちょっと違う点があります。一つの餃子の中に1角のコインを包みます。コインの入った餃子を食べると幸運をもたらすと言われています。1角は1元の10分の1です。
 4年前の春節は家族でお祝いをしました。餃子を食べるとき、自分のお皿の餃子の一つを口に入れて食べながら、家族の表情を見ます。コインの餃子を誰が食べるのか、全員ワクワクして餃子を食べていました。
 「あ、コインを食べた」
とお父さんが笑いながら言いました。みなは、
 「本当ですか」
と、何で自分は食べられないのかと失望しました。お父さんはみなの顔を見て大笑いしながら、
 「うそだ」
と言いました。
 「お父さん、わるいよ」
と、みなが言いました。それから又みなは一生懸命に餃子を食べます。
 「あ、私がコインを食べた」
と、妹が言いました。みなは、妹の顔を見ます。
 「うそはつかないよ」
と、妹が続けて言いました。けれども誰も信じないで餃子を食べつづけます。妹はコインを食卓にボンと投げ、コインの音がしました。みなはあきれてしまいました。いっぱい食べたのに、なんで私はコインが食べられないの、くやしい表情が出ます。
 妹は新しい年でどんな幸運が訪れるのか、幸せ幻想にひたっています。
 「まあ、今年はあきらめるしかないわ」
 妹にお祝いをしましょう。でも来年はきっと私がコインを食べられることを願います。
 でも、私は日本に来てしまった。だから、コインの幸運はお預けになっています。
 安曇野で迎えた今年の春節、私は友だち3人と一緒に過ごしました。その楽しさは私にとって一生忘れられないよい思い出となりました。
 午後2時から私たちは料理の準備を始めました。まず餃子を作ります。地方によって餃子の形も味も違います。まるで方言みたいです。家族のお祝いではありませんからコインは入れません。次は鶏肉のから揚げです。最初は色が浅かったので、もう一個卵を入れてみました。あ、色が変わってきました。テレビで見る色と同じでした。
「よし、だんだん上手になってきました。がんばってください」
と、友だちが言いました。一個食べてみると、おいしく出来上がっていました。最後はおかずを作ります。私たち4人がいちばん好きな野菜はジャガイモです。ジャガイモを細く切って、とうがらしと酢でさっといためます。後はニンジンとカリフラワーとブロッコリーを一緒にいためたおかずです。見た目もきれいですね。食欲が出ます。9時に料理が全部出来上がりました。今日の私たち4人は、超一流の料理人になりました。
 カメラを自動撮影にセットして、私たちはビールで乾杯しました。私は始めてビールを飲んだので心配でしたが、乾杯のあとで友だちが、
 「董さんは大丈夫、顔が少しも変わらないので、どんどん飲んでください」
と言いました。私はビールの味にだんだん慣れました。でも、一缶を飲みきったとき、自分の顔が熱いのを感じました。友だちが私の顔を見て大笑いしました。
 「董さんの顔はまっかです。まるで赤いリンゴみたいですよ。」
 みなは話しながら、笑いながら、料理を食べます。日本で迎えたよい春節のお祝いになりました。
 8月、私は中国に帰ります。皆さんもぜひ中国に来て、中国式の本場の春節を体験してください。きっとよい思い出になりますよ。