夢


やっぱり防風林が必要だな。
この春の嵐には防風林がいる。
だが、防風林をつくるスペースも、屋敷林も、我が家にはないから、
せめて風除けに、4、5メートルの高さの木を、南側に植えたいものだ。
ここは南風がよく吹く。
春は特に強く吹く。
我が家の生垣は、イチイの樹とヒノキの樹がまだ幼い。
イチイは、30センチほどの苗を植えたもの、ヒノキは、飛んできた種から発芽したもの。
そのヒノキの幼木のなかから5本を、南側に移し植えた。
大きくなりすぎると、冬も日陰を作られては困るから、
手ごろな高さで止めよう。

夢を見た。
開拓期、「だれのものでもない土地」だった時代、
入植した人は林を切り開き、岩石を取り除いて、畑を作った。
開拓したところに家を建てた。
風は今より強く吹いた。
冬は厚い氷がはり、寒さは今より身にこたえた。
人々は家の周りに防風林をつくることをならわしにした。
家が寄り集まった集落では、そこを取り囲むように、防風林になる雑木林を帯状に残した。
防風林を備えることがこの地の不文律になった。
それは子孫に引き継がれた。
新興の住宅地があちこちにできた。
家が建つと、村役がやってきて、
「住宅地の回りに、防風林をつくります。
これは村の掟です。土地と樹は村が準備します。お金はいりません。
この地の住人になってくれた、あなたがたを守ります。
あなたがたを歓迎します」
と、にこやかに挨拶した。
新興住宅の周りに防風林が生まれ、木々は家を守り、景色がいちだんと美しくなった。
世界遺産になるらしいと、この美しい村は評判になった。

夢からさめた。
「だれのものでもない土地」なんて、どこにもない。
今は、ハガキ大の土地も、地権者がいる。

また夢を見た。
宇宙自然界には、「所有」なんてない。
生き物たちは、何も所有しない。
1969年7月20日、アポロ宇宙計画で、アメリカは月に初めて足跡を残した。
それから1972年まで5回、月に上陸した。
アメリカは宣言した。
「1776年、イギリスの植民地だったアメリカは独立した。
それから237年、
2013年4月1日をもって、月をアメリカの領土とする。」
アメリカの先住民は白人に奪われ、追われ、封じ込められ、
そしてアメリカは独立し、
21世紀、月はアメリカの領土となった。

夢からさめた。
残雪の常念山脈の、雪がだんだん融けている。

戦後すぐに霧が峰高原に、若い男が入った。
1956年、男は小さな小さなヒュッテコロポックルを建てた。
小屋の周りは夏になるとお花畑になった。
ニッコウキスゲが咲き乱れた。
わずか数坪の山小屋、
石油ランプを灯し、薪で火を焚き、そこに登山者を泊めた。
男は手塚宗求さんだった。
結婚し、妻と二人で、山小屋に暮らし、子どもが生まれた。
山上のヒュッテを暴風雨、暴風雪が襲う。
ヒュッテは必死に耐えた。
宗求さんはヒュッテの回りに、モミの木を植えた。
モミの木は嵐や吹雪からヒュッテを守った。
今、手塚さんは80歳を超えている。
まだまだ元気だ。