長野県および各市町村自治体に、このプロジェクトを提案します <1>

         提案書

「信州に『樹木葬自然公園&子どもの森』を」!


初めに


  詩人の三好達治は、

     願はくば わがおくつきに
     植ゑたまへ 梨の木 幾株

     春はその白き花さき
     秋はその甘き実みのる

     下かげに眠れる人の
     あはれなる命は問ふな‥‥‥

 願わくば、わたしの永眠するところに梨の樹(き)を植えてください、春は白い花が咲き、秋は甘い実が稔ります。木の下に眠る人のことはおたすねくださるな。時を経れば私の詩は消えてなくなるでしょうが、樹は大きく茂れば、人は馬をつなぎ、木陰に旅人は憩うでしょう、と詠いました。私が死んでも、植えられた樹々は後の世の人の役にたってくれるでしょうと。  

    願はくは 花のもとにて 春死なむ その如月(きさらぎ)の 望月の頃

 平安時代から鎌倉時代に生きた西行法師はこのように詠いました。大阪南河内の弘川寺の裏山に結んだ庵が西行の終焉の地でした。そこに西行が愛した桜の木が植えられ、千本以上の桜が山を覆っています。桜の名所、奈良の吉野山の奥にも西行庵があり、「奥の千本」の桜が咲き、毎年毎年人びとの心に喜びをもたらしています。
 昔から、樹を植えて墓標とし、その樹が枝を伸ばし、葉を茂らせ、花を咲かせるのを眺めながら、亡くなった人をしのぶ弔いがありました。
 弔いの形はさまざまに変化し、現代は新たな「樹木葬」が新しい意味をもって登場しています。高額を払って墓地を造るのは容易ではなく、霊園造成は難しく、山林を開くのは環境破壊にもつながり、世界的にも墓地づくりは難題になってきています。
 「樹木葬自然公園&子どもの森」には墓石はなく、樹を植えます。多種多様な植樹によって森が生まれ、美しい景観、憩いの環境の出現を企図します。それは同時に「子どもの森」として命を育む場になり、環境を荒廃から救う手段にもなります。森と水辺を散策し故人を偲ぶ人、昆虫や野鳥を観察し川と森で遊ぶ子どもたち、「憩いと癒し、学びと育ち」の、新たな文化創造の森です。小鳥がさえずり、花々が咲き香り、水辺にホタルやトンボが育ちます。カブトムシやクワガタが樹液を吸い、森や水辺は、子どもたちの楽園になります。



  樹木葬の意義と構想
   【心のケアの場として】

 「美しい自然の中で眠りたい」という心と、「自然のなかで生き続けてほしい」という家族の願いがあります。故人が愛した、あるいは家族が望んだ樹木が故人のメモリアルとして植えられ、さまざまな種類の樹によって森が生まれ、市民のいこいの場となり、子どもたちの心を育む森になっていくのです。樹木葬は「死して生きる」葬送であるとも言えます。
 福島で生まれ、2015年に75歳で亡くなった詩人、長田弘の詩に、こんな一節があります。

 「はるかな時代に、森の国、ロシアの詩人ののこした、死にゆく人のことばを思い出す。
 ――魂が隠れ家を見いだせるように、大きなカシワの木の下に休ませてください。日の光とたわむれる木の葉がすっかり透き通って、きれいな空気がかぐわしくひろがってゆく、大きなカシワの木の下に。」

 人生を全うして大往生をとげる人もいれば、不慮の死を遂げる人もいます。戦争や災害、事故による死、はたまた自死で、家族を失った人の悲しみは深く残ります。
 心的外傷後ストレス障害PTSD)は、心おののくつらい体験が心に封じ込められたことが原因で発症します。戦争帰還兵がPTSDになり、たくさんの元兵士が自ら命を絶ちました。1945年の沖縄戦で心に傷を受けた一人の沖縄住民の事例があります。その男性は、米軍の攻撃のさなか、壕の外に出て死んだ家族を目撃しました。全滅した家族には赤子がいて、まだ名前がつけられていませんでした。50年が経ち、沖縄の戦没者の名を刻む「平和の礎」が建設されたとき、家族の名の後に赤子の記録は刻まれていませんでした。「あの子はこの世に生存しなかったことになるのか」、男性はPTSDに苦しみました。その後何年かたって、やっと、父母の名に続いて赤子の記録が刻まれました。赤ちゃんの尊厳が守られたのです。男性は泣きました。そして男性の心はケアされたのです。
 つらい記憶を心に封じこめていることによって病む、それをいやすには、心の苦しみを解き放つ必要があります。
 戦争犠牲者の遺骨収集が今なお行なわれるのも、弔われざる孤独な死者の尊厳を守り、安らかに眠ってほしいと願う心が人を突き動かすからでしょう。
 災害や事件、事故によって愛する人を亡くし、心を病む人がたくさんいます。そのような現代の社会であればこそ、心の救いとケア、生きる力を涵養する場が必要になります。森の生態系のなかに故人が眠り、そしてその森は人びとによって守られ愛される。大震災の被災地にも「樹木葬自然公園&子どもの森」がつくられるならば、深い傷跡に命の森が生まれ、親族や友人、親しい人は、どんなにか心いやされることでしょう。 


  環境保全の役割】

高齢化が進み、農業後継者の減少によって、耕作放棄地や耕作困難地が増え、里山の荒廃も進んでいます。日本各地のアカマツ林の枯死も深刻です。信州でも枯死が広がっています。対策費用は莫大で、自治体の予算を圧迫しています。さらにアカマツを守るために薬剤の空中散布が行なわれ、薬剤による環境被害、鳥類やミツバチなど生態系への影響も懸念されています。昔の里山を構成していたクヌギやナラの雑木林は極度に少なくなり、アカマツ、カラマツ、ヒノキ、スギなどが中心になっています。アカマツの枯死が広がれば、土砂災害の危険が増すことから、防災面からもしっかり根を張る落葉広葉樹林の再生が必要です。落葉広葉樹林が育てば、下草にカタクリ、アマナ、イチリンソウニリンソウフクジュソウなどが育ち、それを求めてチョウがやってきて生態系が蘇ってくると言われています。
 このプロジェクトは自然災害を防ぎ、生態系の復活のためにも役立ちます。「樹木葬自然公園」が里山に造られれば、元からある樹を活かし、新たに植えられるメモリアルの樹によって、種類も多様な混合林が生まれます。広葉樹、針葉樹、花の咲く樹、紅葉する樹などさまざまです。全国各地の樹木霊園では、ハナミズキサルスベリウメモドキ、エゾアジサイ、モミジ、サクラ、イチョウ、コブシ、コナラ、クヌギクルミモクレン、カツラ、ホオ、キンモクセイ、マユミ、ヤマボウシ、クスなどが植えられています。バラを植える花園霊園もあります。樹種が増えれば、その森に棲む生物も多様になります。
 「ある生物種が絶滅すると、それと深くかかわっている他の30種の生物が一緒に絶滅してしまう。この地球上で、毎日、50〜100種の生物が、人間によって絶滅に追い込まれている」と言われています。このプロジェクトは、生物多様性環境保全にもつながります。


                        つづく