突然、肺ガンがやってきた <3>

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 ぼくは病院の環境について考え始めた。

 病室で本を読むには、ちょっと暗い。電灯を点けなければならないから、デイルームへ行こうと思ってストックをついて出る所へ、看護師さんが具合を診に来て、一緒に歩き出した。彼女は学生のような若さ、言葉を交わしながら歩く二人の姿は、じいさんと孫だ。

 「十階の部屋を、自然を感じ取る部屋にできませんかねえ。入院している人には、緑の環境、自然が必要だと思うんですよ。青空、白い雲、木立ち、小鳥、山々を眺め、日光を浴び、そよ風に触れると、精神が安らぎ、命が元気になると思いますよ。看護師さんにとっても、同じだと思いますよ。あの部屋、活かせませんかねえ。」

 「そうですねえ。私たちも、ホッとくつろげるところや時がほしいです。」

 「私は、安曇野市に住んでいるんですが、建て替え前の、古い安曇野赤十字病院に、ギリシアから贈られた『ヒポクラテスの樹』が中庭にあったんです。ヒポクラテスは医学の祖、医聖と言われた人です。その樹には説明板があって、それを院内の廊下から見ることができたんです。

 赤十字病院の建て替えの計画が出てきた時、ぼくはその聖樹を新しい病院に移植してほしいと、手紙を書きました。

 ところが、新しい病院になったとき、どこにもその樹は残されていませんでした。病院の周囲には、緑の庭園も緑樹帯もありません。

 スペインのバルセロナに、サン・パウという病院がありました。何年か前に行ったことがあるんですが、すでに病院はほかに移ってそこは世界遺産になって保存されていました。その病院は、「自然は、病院の機能において、不可欠な要素で、草木が空気を浄化し、細菌を固定し、気候に影響を与え、防風林の役割を果たし、湿度を保つなどの働きを持っている。庭園は、患者の福祉に欠かせない、という考え方でつくられていました。

 患者たちが、病院のなかのバラ園を散策したり、緑の林の木陰で憩ったり、そんな病院を日本でも造れないものかなあと思います。」