ふきのとう、おこわ、たくわん

 畦に生えているフキノトウがたくさん採れた。フキノトウも大きく太ったのや、細くやせたのや、さまざまだ。芽を出す時季もさまざまで、早いのは12月だと、ヒデさんが言っていた。それは土の中からほじくりだすようなフキノトウだ。今出ているのは、花がまだ開いていないのと、ぽっかり開いて小花が群れているのと、同じ場所でもいろいろで、差が大きい。枯れ草色の田の畦に、さわやかな薄緑が点々とあるのは、春のしずくのようだ。カンゾウの新芽も出ていて、それは濃い緑色だ。
 フキノトウの一個を味噌汁の具にすると、この味噌汁はたちまち新鮮な春になる。てんぷらにするとその苦味がおいしい。先日、家内が三日間留守だったとき、一度つくった味噌汁を、何回かの食事に食べた。残り物のそれに毎回、フキノトウの一個を入れる。すると、新鮮味の薄れた味噌汁がたちまち春の香りになった。今日採れたのはフキノトウ味噌にしよう。
 来週金曜日に、アフタヌーンティーを我が家の工房でしませんかと、コーラス仲間の大友さんと巌さん、有賀さんに声をかけたら、奥さんと一緒で「やりましょう」となった。お彼岸の日の区民の水路掃除のとき、ご近所の良子さんにも声をかけたら、喜んでくださった。旦那さんも一緒にと言ったが、体が不自由になってときどきデイサービスに行っている、無理ですねとのことだ。
 昨日のお昼、良子さんがやってきた。
 「オコワを持ってきましたよ。食べてください」
と腰が痛いのに軽トラックに乗ってもってきてくれた。大喜びでいただくと、作りたての熱々だった。道端のコンクリートの土止めに腰を下ろして少しおしゃべりした。
 「29日のアフタヌーンティー、大友さんにはモロッコ旅行の写真を持ってきてもらって、話をしてもらおうと思ってるんですよ」
 「私も以前ヨーロッパに行きましたよ。主人が元気だったころ、ベネチア、ウイーンとかへ行ったんですよ。オーストラリアは、エアーズロックも行ってきましたよ」
 ご主人が脳梗塞にならなかったら、今も外国旅行もできただろうね。
 「気楽な、おしゃべりかいにしましょうね。私は今から、みよ子さんの庭のバラが大風で倒されたから、なおさなければ」
 「ああ、そうなの。みよ子さん、喜んでるよ」
 良子さんは、軽トラックに乗って帰っていった。
 みよ子さんから声がかかったのは、その前日だった。なんだか道路から大声が聞こえる。のぞいてみると、みよ子さんがこちらを向いて呼んでいた。2年前、ぼくが作ったバラの支柱が大風で倒された。なんとかしてちょうだい、とのこと。バラはぜんぜん剪定しないから、勝手放題に伸びている。まずは枝を剪定し、支柱を固定する。剪定枝は、とげだらけで、服に引っかかる。皮手袋をはめて、切った枝を束ねて、我が家に持ち帰った。これは枯れてから燃す。
 「私のつくったタクアン食べるかね。おいしいよ」
 みよ子さんは、そう言って軒下の樽をかきまぜた。
 「あれれ、もう終わりかね、もう残っていない? あ、一本あった」
 「それはみよ子さんが食べなさい。一本しかないんだから」
 「そんなこと言わないで。食べとくれ」
 みよ子さんは、ぬかみそのついた小さな黄色い一本をポリ袋に入れてくれた。
 夕方散歩していたら、93歳の矢口のじいちゃんが、畑のなかのお墓から出てきた。
 「お彼岸だで。墓参りでね」
 「ここが矢口さんのお墓?」
 「先祖からの墓でね。この石は五人がかりでかついでも持てねだ」
 江戸時代につくられたという墓石を指して言う。このあたり、自分の農地の一角に一族の墓が作られている。
 良子さんのおこわ、夕食にいただく。お赤飯だった。ごま塩もついていた。甘味があっておいしい。みよ子さんのタクアンも一緒に食べた。うん、おいしい。