田畑の雪がほとんど融けた。何回か降った雨の威力は大きい。唐沢さんが、もうフキノトウが芽を出しているというので、いつもの田んぼの畦に行ってみた。水路の脇をよく見ると、枯れ草の間から芽をのぞかせている。まだ小さいけれど、5つ摘んで、お味噌汁にでも入れようと持って帰った。
今朝の資源回収ゴミは、ビン類だ。自転車に空き瓶を載せて、ゴミ回収ステーションに持っていった。各戸から順番に出る当番と環境委員の村人が4、5人いた。コンテナに無色の瓶と色つきの瓶を分類して入れる。そのとき、クォークォーという声が聞こえた。
「鶴だ、鶴だ」
そこにいたおばさんが空を見上げて叫ぶ。えっ、鶴? ぼくも空を見る。曇り空に20羽ほどの大きな鳥が南の空へ飛んでいく。V字型になって飛ぶ10羽ほどと、隊形をとっていない10羽ほど、首を長く伸ばし、ゆったり羽ばたいていく。一瞬、長い首を見て、鶴がここに? と思ったが、それは白鳥だった。
「白鳥ですよ、白鳥」
とぼくは叫んだ。おばさんは、すぐに訂正して叫んだ。
「白鳥、白鳥」
この村の空まで白鳥がやってくるのは珍しい。
「犀川の白鳥湖には1000羽来てるだ」
と別のおばさんが言う。犀川からここまで10キロほどはある。
帰り道、両手にストックをつき、ザックをかついで、ゴミ出しにきたXさんに出会った。
「白鳥、飛んで行きましたね」
声をかけると、
「ええ、飛んでましたねえ。豊科の新しく水を張った田んぼにたくさん降りていましたよ」
「そうですか。それはそうと、私いま、三浦雄一郎の『歩けば歩くほど人は若返る』読んでいるんですよ」
「はははは、ありがとうございます」
なんで「ありがとう」なんかな、きっとXさんは三浦雄一郎と友だち感覚なんだろうな。ひょっとして、本当に友だちなんかもしれない。
「今年、80歳でエベレストに登るらしいですね」
「そうなんです、5月ですよ、80歳ですよ、もう三回目ですよ」
家に帰って、白鳥のことを伝えた。
「もう北帰行が始まったのかも」
と家内が言った。そうか、北帰行の練習を始めたのかもしれないな。でもまだシベリアに帰るには寒すぎる。
しまった、ユリちゃんに、白鳥を見せたかった。日曜日から来ていたユリちゃんを白鳥湖に連れて行くことを思いつかなかった。ユリちゃんは朝ごはんを食べて、三重に帰っていった。この3日間、彼女がいて、にぎやかで、楽しい暮らしだった。
毎週土曜日の午後、「早春譜音楽祭」の合唱練習が続いている。3月から5月にかけて、4回ステージにたって数曲歌う。年配、高齢者3、40人の合唱団、男性は6、7名と少ない。安曇野を歌う新曲がレパートリーに入った。
今夜からまた雪になるか、「春は名のみの風の寒さや」。