屋久島からの贈り物「かから団子」

 屋久島から団子が送られてきた。まあ、きれいに作られた団子だねえ。いかにも屋久島という感じだねえ、と言ってから、「いかにも屋久島という感じ」と言ったものの、それはどういう感じなんだろうねと思った。団子に添えられたサトコさんの手紙が入っていた。

 「お送りしたのは、鹿児島南部の郷土菓子『かから団子』です。包んでいる葉は食べられません。中身のお団子だけを食べます。冷凍保存できます。
 材料は、ヨモギと黒砂糖と、もち米だけです。ヨモギがたくさん入っています。村のお年寄りの手ほどきを受けて、私が手作りしました。
 ヨモギは春に摘み、ゆでてアク抜きしたものを冷凍保存しています。包んでいる葉は、サツマサンキライです。中にはサルトリイバラもあります。近くの山で採ってきます。つる性のトゲのある植物なので、採るときに服や手にひっかかります。そのことから、村では『ひっかかる葉』→『かかる葉』→『かからの葉』と呼ぶそうです。『かからの葉』を使ったお団子で、『かから団子』になったとか。
 この葉っぱには殺菌作用があるそうです。また、表面がつるつるなので、お団子がくっつきません。天然のパラフィン紙。昔の人の知恵はすばらしいです。
 島の人はよく、日常のおやつや、季節のお菓子を手作りします。島なので昔はなんでも簡単に手に入らなかったのでしょう。自然にあるものを利用して作ることが多いです。とくに手作り菓子の個別包装紙は、何かの葉っぱです。ゲットウ月桃)の葉、ダンチク(暖竹)の葉、孟宗竹の葉、ツワブキの葉など、自然からいただいて自然に還す、エコですね。『かから団子』は冷凍保存できます。室温で自然解凍して食べるといいです。レンジを使うときは短い時間でチンしてください。やりすぎるとベタつきます。村の人の中には、たくさん作って冷凍しておき、一つ二つと解凍して、日々のオヤツにしている人もいます。どうぞ、おめしあがりください。」
 A4一枚に書かれたこの手紙がうれしかった。サトコさん手作りの「かから団子」ははるばると信濃までやってきた。開けてみると、なるほどサンキライの大きな葉っぱが団子をくるりと包んで、きれいに並んでいる。
 「サツマサンキライは本州のサンキライよりも大きいね」
 洋子とぼくは一個ずつ手に取る。サンキライの葉は、団子にくっつかず、きれいにはがれた。
 「こりゃ、りっぱな葉だね。厚みもあるね」
 団子は黒っぽい緑色をしていた。
 「黒砂糖とヨモギの色だね。香りもいいよ」
 「ほんとだ。ヨモギたっぷりの香りだ」
 食べてみた。もちもちとして、かむと柔らかい甘みと、ヨモギの味がにじみ出る。材料が三種類というシンプルさ、黒砂糖とヨモギともち米が、この素朴なおいしさを生んだんだな。
 手紙の中のゲットウ月桃)とは、どんな植物なんだろうと調べてみた。広辞苑を引くと、
 「ショウガ科の多年草。インド原産で東アジアの熱帯や、沖縄、九州南部、小笠原などで栽培している。高さ3メートル、夏に芳香のある淡紅色の美しい花をつける。果実は球形をしており、葉は70センチメートルに達し、食物などを包む。茎はマット、魚網などに使用する。」
とあった。
 サトコさんにお礼の電話を入れた。
 「おいしかったよー」
 「よかったー、よかったー」
 初めての手作り、作ってよかったという気持ちが叫んでいた。屋久島はやっぱり暖かい。屋久島の草も木も、豊かな雨と暖かい気温で猛烈に生長する。裏の山に行けばサンキライもある。屋久島に移住してもうすぐ4年になるサトコさんご夫婦だ。
 2年前には、「屋久島の雨、風、水、大地、生き物、すべてが想像以上にきびしく、へなちょこ人間は翻弄されています。が、しかし感動することがいっぱいあります。日の出はドラマチックです。海に映る雲の大きさ、行く船の小ささ、窓から見える鳥たち。集落の人たちとの交流は学ぶことが多いです。」と年賀状に書いてあった。台風シーズンは猛烈な嵐に襲われ続けただろう。自然の変化が激しいということは、それだけ豊かだということでもある。村の人たちとのお付き合いも深まり、屋久島の自然に鍛えられ、サトコさんも島の人になりつつあるしるしが「かから団子」に現れていた。