ピーカンカンと空は晴れ、四方八方 信濃の山だ


烈風のなかを、トビがゆっくり風上へ向かって飛翔していく。
雪道の上をつがいのセグロセキレイがヒラヒラ、
ハンミョウのように少し飛び上がっては少し舞い降り、
餌を求めて行けども雪ばかり。
カラスが庭の野菜クズをあさりにくる。
屋根から雪煙があがった。
ピーカンカンと空は晴れ、四方八方 信濃の山だ。
北北東は 妙高の白い峰、
南に甲斐駒、北岳、仙丈がどっしりと、
遠くに塩見、荒川、赤石らしき山、
地平線上の南の山を視線でなでれば、
木曽駒と宝剣岳は黒いシルエットだ。
美ヶ原の右には、もうまぎれもない八ヶ岳連峰、
冬の陽はその峰から昇る。
昇れば一気に天空は輝き、りんりんたる寒気に輻射熱を注ぐ。
北アルプスの峰々に雪雲がかかった。
山に吹雪がやってくる。


枯れたライラックと白樺の跡に、
この春、銀モクセイの苗木を植えた。
銀モクセイは夏に枝を伸ばしもしたが、寒さに弱いこの樹のこと、
枯れさせてはなるものか、
支柱を立て、防寒の囲いをした。
大阪の兄嫁からもらった人差し指ほどの小さい苗、
トキワマンサクはいっこうに生長せず、
毎年冬は雪の下に押しひしがれてきた。
信濃の風土に合わないのかと思いもするが、
3年目のこの夏、やっと枝葉を増やしたトキワマンサク
もっと大きく育ってくれよと、これにも覆いをしてやった。


ピンポンと玄関のチャイムが鳴って、宅配便が届いた。
「今日はさむいね」
「いやはや、寒いだね。有明のほうはもっと寒いだ。
道はつるつる、今朝から3台、車が事故を起こしてるだ」
届けてくれたおじさんに、
「気をつけてくださいよ」
と声をかけた。
宅配便の中に、あわせ柿と梨、 
どぶろくのペットボトルが入っていた。
息子の嫁のとうちゃんの手作りだ。