合同結婚式 <安曇野の若者たち>

  牧師と4人を囲む
  誓う、愛を
  ウェディングケーキにナイフを入れる
  親への感謝
  仲間たちのジャグバンド



強風が稲田を吹いてきて、式場のテーブルの上のコップが飛んだ。
今日は、大ちゃんとジュンちゃんの結婚式。
もう一カップル、ぼくの知らないツヨシさんとフマさんのカップルとの合同の結婚式と披露宴であり、
すべては友人たちによる徹底した手作りだ。
このごろ雨ばかりの日本だが、きょう安曇野は幸いにも雨に見舞われずにすんだ。
場所は、高瀬川穂高川が合流する犀川のほとり、「自然体験センターせせらぎ」という小さな市の施設を借り切った。
白鳥がやってくる犀川の御宝田遊水地から川堤を越えたところにある。
少し上流に、ワサビ田がひろがる。
大ちゃんとジュンちゃんのカップルと、
ツヨシとフマさんのカップル、二つのカップルは初めから友人であったわけでなく、
今年の一月に知り合ったという。
結婚式の案内状(これも手書きのもの)に、彼らは書いている。


「2009年1月24日、安曇野地球宿にて、夢をかなえる会『ドリカム新年会』が行なわれました。
そこで私たちは共に結婚式を行なうことを決意しました。
とは言え、今まで知人の距離であった私たち、何から手をつけよう‥‥、と思いながら、
出した初めの一歩、それは『友だちになる』という愛の行為でした。
たった6ヵ月という短い時間のなかで、お互いの30年近い人生をわかちあい、
これから生まれてくる子どもたちに残したい未来を語り合い、
その結果、この合同結婚式ができあがったのです。
私たちを支えてくれている安曇野の友人たちの力を借りて、
私たちらしい形でお集まりくださる皆さまに感謝を届ける一日になればと思っています。
前代未聞のお式で、皆さまを驚かせる節もあるとは思いますが、
次世代を生きる私たち流の式を暖かく見守り、どうか末永くご支援ください。」


大工の大ちゃんは、半月ほど前にこの案内状を持ってきて、
テーブル席とピクニック席があることを話してくれた。
テーブル席は屋根のあるところ、ピクニック席は屋根のない芝生広場の席で、
ピクニック席は会費が安い。
ぼくらはテーブル席を申し込むことにしたが、
建物の中に入らないピクニック席の人たちは、雨が降ったらどうするのかね、
かんかん照りになっても、きついねえ、
とピクニック席を心配した。
雨降らないでくれよ、と願っていたら、雲は多いが雨にはならないでいけそうだった。
だが、風が強かった。
風の国だよ、ここは。


朝早くから、友人たちと新郎新婦たちは、準備を進めてきた。
大ちゃんも朝5時から、芝生広場に万国旗風に、ロープに三角旗を張り渡したということだ。
料理も手作りして準備、これは大変だったろう。


望三郎君の司会で式が始まる。
赤い毛氈を敷いたバージンロードを2カップルは通って、芝生広場の小山に上る。
東に水田、南に林、西に犀川
小山の頂上で、牧師さんの導きで式は行なわれた。
聖書の言葉に誓う。


盛り上がったのは披露宴。
披露宴が始まる時間になっても新郎新婦4人の姿が見えない。
司会の望君が探しまわっていると、
稲田の向こうから、荷台に四人乗ったジムニーが式場に乗り込んでくるという演出で始まる。
若い参加者のバンド演奏、歌、スピーチ、
ツヨシとフマのカップルが、音楽の道を歩んできた関係もあり、
音楽畑の人たちが多い。
ジュンちゃんが、数年間沖縄の小島に住んでいたときにできた友人が、その島で自作した歌を熱唱したのは心に深く残った。
「あなたに会えてよかった。あなたの子どもであってよかった。」
ジュンちゃんのリクエストに応える歌声だった。
安曇野でカヌーをやっている年配の親父さんが、自分でつくったおにぎりを配った。
公園の小山の上でたくましい若い男性が、幼児たち数人を相手に遊んでいる。
子どもたちが若者を捕まえようとして走る走る。


披露宴の終盤、新郎新婦から親への花束贈呈と感謝の言葉が語られた。
恒例のメニューだが、中身は違った。
四人はホンネを語った。
親というものの存在とその真実に気づいたときの思いを、実に正直に率直に語った。
自分の名前にツヨシ、しかし自分はフマに会うまでは弱い自分だった。
名前の通りに強い自分に切り替わってきたのはフマとの出会いがあったからだった、
親が付けてくれた名前にこめられた親の思いがはじめて分かった、とツヨシさんは語った。
母親を否定してきたフマさんは、親の生きてきた道と自分の生きていく音楽の道の重なりを知り、
反撥をのりこえて、これから母よ、自分に甘えてほしいと涙を流して語った。
四人の話に胸が熱くなった。
このときを境に、見方が変わった。
四人は一体となった。
四人は手をつないでいた。
ぼくにとってこの結婚式の祝福相手は一つのカップルではなく、二つのカップルであり、
さらにはそれぞれの親たちになった。


フィナーレは、新郎新婦による4人の歌と演奏。
ツヨシさんのピアノとフマさんの歌は豊かで確かだった。
そしてジャグバンド。
結婚式を作ってきた若い仲間たち、友人たち、幼児も加わり、
総勢20数人ほどがそれぞれ楽器をもち、なべをたたき、板をたたき、
何でもあるものを楽器にして演奏する。
歌は、『安曇野賛歌』。


盛り上がり、渦を巻く感動。
雨がぱらぱら降り始めた。
ありがとう、ありがとう。