安曇野に樹木葬自然公園と子どもの森を! 命のバトン、心のバトンを未来につなぐ

 「ちょっと相談したいことがあるんですが、今からどうですか」
「いいよ、いいよ、こっちへ来とくれ」
車をとばしたら、すぐ着いた。アキヒサさんは仕事場にいた。サツマイモがごろごろ床に並べられている所に、椅子が二つあった。
「相談ってなんかね」
そこで今作ってきた印刷物8ページ、ホッチキスで閉じたのを渡した。表紙の文字は、「安曇野に 樹木葬自然公園と子どもの森を! 命のバトン、心のバトンを未来につなぐ」。
樹木葬って知ってますか」
そんなの聞いたことないだろうな、と思いながら説明する。好奇心旺盛なアキヒサさんのことだ。身を乗り出してきた。
ぼくが、安曇野樹木葬の霊園をつくろうと言い出してから、二年になる。あちこちいろんな人に構想を話したりしたが、一向にぼくは具体的行動を起こしてこなかった。気になりながらも、今の仕事を優先しなければならないから、ついつい目先のことをしてしまう。年をとって、時間の流れがいやに速い。あれあれと思ううちに一週間が過ぎ、いつのまにやら一年が過ぎ、ぼくの構想は前へ進まない。こんなことをしているうちに、リミットが来てしまうぞと、自分を叱咤するが、難題ほど後回しになる。当面やらなければならないことを、紙に書いてみたら17項目あった。トップに、やっとエンジンがかかったこの樹木葬自然公園づくりの開始を書いた。
1、 アキヒサさんに会う。
2、 北さんに、酒と黒豆とネギとカボチャを宅配便で贈る。
3、 「おすそ分けの会」ニュースをつくる。
4、 「子ども会通信」をつくる。
5、 イチゴの定植。
6、 黒豆を唐箕にかける。
7、 タマネギに追肥を入れる。
8、 プランターにパンジーの苗を植える。
9、 稲垣さんに手紙を書く。
10、干し柿に雨よけをつける。
あとまだ7つある。当面これを一つ一つ片付けていくが、一つやり終わったら次の課題が登場するから、のんびりしておられない。その中で、このプロジェクトは、ゼロから一人で始めて仲間をつくっていく運動だから、大勝負になる。
安曇野に、樹木葬自然公園と子どもの森を一体にしてつくろうという計画なんですよ」
この地域に先祖から住み着いている人は、先祖代々の墓が田んぼの中などにつくってある。しかし新しくこの地域に来た人や、この地域に生まれても次男坊や三男坊は墓をもっていない。そういう人たちが新たに墓所を持つことは、経費の面でも困難が多い。そこで自分の墓地をつくらず、墓石もつくらず、樹木を植えてそれに託する、そうしたら自然公園が生まれてくる、そこに子どもの森を併設するというプランを述べていった。
「わかった、どれくらいの面積だ?」
ちょっと考えてからぼくは応えた。
「1町歩くらいかな」
「そうか、また忙しくなるよ、ワハハハ」
アキヒサさんの頭のなかに場所のイメージが現れているようだ。ぼくが趣意書に描いた俯瞰図を見てもらった。アキヒサさんは、子どもの森にも感じたようだった。
「子どもは大切だ、大切なことよ」
まず人を集めよう、意見はそうなって、次の動きにつなげることになった。
つづいて、ヨシナオさんの家に行く。ヨシナオさんには昨年話したことがある。そのときは、それはすばらしい案だと大いに盛り上がった。ヨシナオさんは、ぼくの絵を見て、
「そうそう、こういう川なんだよ、これなんだよ」
と言った。曲線を描いて蛇行する小川、そこに生き物がたくさん住む。
「賛同者に名前を入れてくれていいよ」
これからの有力な協力者になってもらえそうだ。

今回作った趣意書の初めに、ぼくは次のような文章を入れた。
☆ この自然公園は、故人が愛する木に生まれ変わり、自然界に再生するところです。森には木の精と人々の愛が満ちています。
☆ この自然公園には、墓石はありません。故人や家族が希望して植えた木、あるいはすでに植えられていて、その中から選ばれた木が、故人のメモリーになります。
☆ この自然公園を訪れると、心が安らぎ、いやされ、幸せになります。だれもが行きたくなる「命の森」です。
☆ この自然公園には、多種多様な草木が育ち、その中に「子どもの森」があります。小川が流れ、池があり、生命が生まれ、子孫を残し、生命の循環を繰り返す小鳥や魚、カブトムシやクワガタ、ホタル、ヤンマなど昆虫が住みます。子どもたちは、森に永眠する人たちを心に感じながら、生きることを学び、遊び、心を育みます。
☆ この自然公園は、山岳地帯を背景にして、安曇野の景観と環境をよりいっそう美しいものにします。
☆ この自然公園は、全国から、永眠を希望する人も、そこに眠る故人の家族、親族、友人もやって来ます。そうして人のつながりが生まれ、安曇野を訪れる人が多くなります。
☆ この自然公園の経営、維持管理は、市民の組織が行ないます。構想実現に向けて、志を持つ人々が発起して活動を始め、組織を立ち上げます。行政は、実現に向けて可能な支援をします。
☆ 命のバトン、心のバトンを未来につないでいく自然公園です。