R・ド・グールモン「落ち葉」



7年前まで5年間住んでいた奈良の金剛山麓の古家は、冬はしんしんと冷え込んだ。築80年の古民家は少し傾き、土壁と柱の間に隙間が開き、天井裏には野良猫が住み着いて自由に外と出入りしていた。冷たい外気は容赦なく室内に入ってくる。寝室の気温は、外気温と変わらない。なんとか寒さを防ごうと、壁の内側に板を張り、天井板にもう一枚何かを貼り付けようと、ちょうど使っていない古障子があったから、その4枚に障子紙を貼り天井に取り付けることを考えた。取り付ける段になって、そのままでは味気ないから、そこに何か詩の一片を書こうと思いついた。そしてグールモンの詩と、石垣りんの「峠」、三好達治の「汝の薪を運べ」、もう一つは何だったか思い出せないが、4編の詩の気に入っている部分を毛筆をにぎって墨で書いた。天井に貼り付けると、うん、なかなかいい感じだ。夜寝るとき、天井を見上げると、詩が眼に入る。詩も味わい深い。あらゆる廃材を利用する暮らし方はこの時代に身についた。天井のグールモンの詩「霧」は、次の部分だった。


      シモオン 外套を着よ 黒塗りの厚い木靴を履け、
      二人して霧の中を行こう 船に乗った人のように。
      さあ あの島へ行こう、そこの山からは静かにひろがった野原が見え、
      そこの野原には、牧草の新芽を食べる幸福な獣と
      柳の木のように見える牧人たちと、
      またぎで車に積み上げる 草束とが見える。
      野原には なお日が当たり 羊の群れは止まる家畜小屋に近く、
      ワレモコウと チシャと ウイキョウの匂う 庭のしおり戸の前に来て。
 
グールモンはフランス、ノルマンディーの人。この詩は田園詩「シモオン」のなかにある。
「落葉」という詩がある。訳は堀口大学。この詩も、ぼくの好きな詩のひとつである。


           落葉

     シモーヌ、木の葉の散った森へ行こう
     落葉は苔と石と小道とをおおうている
     シモーヌ、お前は好きか、落葉踏む足音を?

 
     落葉の色はやさしく、姿はさびしい
     落葉ははかなく捨てられて 土の上にいる
     シモーヌ、お前は好きか、落葉踏む足音を?
   
     夕べ、落葉の姿はさびしい
     風に吹き散らされる時 落葉はやさしく叫ぶ
     シモーヌ、お前は好きか、落葉踏む足音を?


     寄りそえ、われらもいつかは あわれな落葉であろう
     寄りそえ、もう夜が来た、そうして風が身にしみる
     シモーヌ、お前は好きか、落葉踏む足音を?