ロングブレスとウォーキング



以前太極拳の教室で、インナーマッスルを鍛えることの大切さを指導者から聞いたことがある。太極拳はそれに役立つということなのだが、インナーマッスルっていったい何だ?とそのとき思った。調べてみると、インナーマッスルというのは体の奥のほうにある筋肉の総称で、姿勢を調節したり、関節の位置を正常に保ったり、体の動きをなめらかにする働きをしているらしい。しかし、そういう筋肉があるとしても、それを鍛えるということがどういうことなのか、詳しいことは分からないままに生活を送っていた。太極拳教室では、練習の初めに会場を、最初は前向きに、次に後ろ向きにぐるぐる歩くのがいつものやり方だった。先生は、歩く姿勢について「天から吊られるように」ということをよく言われた。姿勢をまっすぐにして体の軸をつくること、それが重要であると。
ぼくの姿勢が、少し前かがみになっているなと気づくことが以前からあった。何回か腰が曲がりかけていると言われたこともあった。言われるたびに、そうかなあ、そんなことはないと思うがなあと、そのときは意識して背を伸ばして歩いたりしたが、やはり時々前傾姿勢になっていることに自分でも気づくことがあった。いすに座って食事をするときは、背骨がすくっと伸びていないことは明らかだった。背中から腰までの骨が後ろ下に弛緩している。意識したときだけ背を伸ばそうと思うが、普段の生活では、いつのまにか体の軸が崩れている。ウォーキングのときも、「天から吊られる」歩き方を意識していない。
去年暮れ、帯状疱疹に続いて不整脈が出て、それから今年春まで何回か不整脈が起き、診察を受けた。これまで不整脈は、ストレスや激しい運動をしたとき突発的に起こることがあった。それが去年暮れから今年7月まで、不整脈の起きる回数が増え、起きると二日間続いたこともあった。心電図を診た医師は、これが常態化すると血栓ができる可能性もあり、その血栓が血管のなかで詰まると脳梗塞心筋梗塞などが引き起こされることがあると、恐ろしいことを言う。医師は不整脈が出ているときは、それを抑えるための薬を処方してくれた。しかし、不整脈の原因は何か、起きないようにするために、どうすればいいのか、医師に質問をしてみたが、具体的な答えはなかった。
ぼくは毎日朝起きると、1時間から1時間半、ランを連れて速足のウォーキングをする、これは雨の日も雪の日もどんな天候でも続けてきた。夏は午前4時半から5時ごろに起きて家を出る。冬は6時ごろ出発する。それはランが我が家族になってからで、もう6年以上になる。ランはそのことを習慣にしているから、その時間が来ると起きてくる。
そのウォーキングのやり方を変えたのは、この夏からだった。そのころ体重が69キロを超えていた。胴回りも増えていた。これが気になった。減らさなければ、と思った。その時期にTVで二つの番組を見た。一つは体重を減らすために効果があるというロングブレス、もう一つは内臓脂肪の危険についての報道だった。ぼくの頭に、自分の心臓に脂肪がついているというイメージが浮かんだ。ウォーキングにロングブレスを取り入れてみよう。歩きながら、4歩で息を吸って、9歩で腹をへこましながら吐く。ときどき立ち止まって、三秒息吸い、7秒息吐きをする。吐くとき肩甲骨を背中で合わせるように両腕を後ろに開く。1時間全部それを続けることはできない。ときどき意識したときにやる。この実践と食事の量のセーブとよくかむことの実践も行なうようにした。
9月から10月、効果が現れた。不整脈が出なくなった。体重が67、66キロと減った。一時体重は、64.7キロまで下がった。自分の感覚であるが、心臓の脂肪が取れたような気がする。姿勢もまっすぐ伸びるようになった。歩いているときも座っているときも。
「柔らかさとは、変化の可能性の豊かさである」と、柔らかさ、滑らかな動き、しなやかな生き方を大切にしたのは、野口体操・野口哲学だった。体が柔らかくほぐれると、身体と意識が良い関係になる。みずみずしさを取り戻す。