春の野

 彰久さんの農園に、5月、スペインから実習生が数名来るということだ。ソバの栽培をスペインで、と彰久さんは以前、スペインに行ったことがあるそうだ。その関係からスペインと彰久さんはつながりがある。レンゲプロジェクトも立ち上げて、田んぼにレンゲの花ざかりをつくろうとしている彼の農園もいま春爛漫だ。
 今年の冬は厳しく、春が遅かった。氷点下から急激に春が来て、まさにスプリングだ。
 ぼくは学校でよく生徒たちに話した。
 <SPRINGはねえ、原義が「芽が出る」なんだよ。それが「春」になり、「泉」「湧き出る」になり、「ばね」「跳躍」になった。春は、大地から命が泉のように湧き出て、ばねのようにはねて、芽を出し花を咲かせるんだよ。北欧の春は、一挙にやってくるんだ。春を待ち望んでいた人たちは、一斉に咲き出す花々を愛でて、喜び祝うんだよ。>
 今年の日本の春は、一挙にやってきた。
 今年の野は、ヒメオドリコソウの群落、ナズナ、ツクシの群落が顕著だった。我が家の庭には野性のケシが無数に生えている。花も、梅、桜、コブシが同時に花開き、たくさんの草花も同時に開花している。
 コブシとモクレンは、よく似ている。3年前庭に植えたヒメコブシの幼木が大きくなり、今年はたくさんのピンクの花をつけた。ヒメコブシはシデコブシとも言う。ひらひらと花びらが分岐して、風にゆれた。強風が吹いたとき、可憐な花びらが次々と散った。コブシは白花だ。コブシを追うようにモクレンの白い花が空中に咲く。
 アスパラガスが、にょきにょき芽を出した。うまそうだ。野のあぜのあちこちに生えていた葉を見て、これはアスパラだと、移植したら、根づいて毎年芽を出す。一日に伸びるのが速く、気づいたら伸びすぎていることがあった。焼いて頭のほうからぱくぱくと食べる。焼きアスパラ独特のおいしさだ。
 スイセンは種類が多い。庭でいろんな種類のスイセンが鮮やかに咲いている。農夫が球根を植えたのだろう。田んぼのあぜにずらりと列をつくっているところがある。道行く人の眼を楽しませてくれる春一番スイセンはこよなく美しい。