ヒメコブシの話

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 スイセンが咲き始めた。一年でいちばん美しい季節だ。

 ヒメコブシのつぼみが膨らみ、赤紫の楕円形が枝の先に見える。小鳥の眼はするどい。ヒヨドリがもう十日前ぐらいからやってきて、咲き始めるのをねらっている。

 花が咲き始めると、ヒヨは枝の先端に止まって、ぱくぱくつついて食べ始める。せっかく花開いたのに彼らの食欲は旺盛で、数羽で食べられると、たちまち花の数が減っていく。花を楽しみにしている我が家の住人は、困った。そこで三年前は、ヒメコブシの梢を覆うように、ゴーヤの弦をからませるネットを脚立に乗ってかぶせた。細い糸で目が荒くできたネットは、鑑賞する我々人間にはかすかに見えるだけだからあまり気にならなかった。ネットのおかげで、コブシの花はヒヨにもあまり食べられなかった。ところが葉が茂りだすと、小枝にネットが絡みついて、これでは小鳥たちも枝に止まれなくなる。そこでまた梯子を立てて、苦労してネットを取り払った。

 そして去年、もうネットも何もしなかった。花が咲いて、ヒヨドリはやってきた。食べるは食べるは、つぼみが開くと、花の中をあの強力なくちばしでつつく。ぼくは、こりゃたまらんと、タイ国の手でぶらさげる銅鑼を持ち出して、グァングァン叩いて追っ払ったが、そんなのは長く続かないから、たちまち花は無残にも数輪残すだけとなった。しかたがない。自然の摂理だ。もうあきらめた。

 そして今年、なんかいい方法はないもんか。思案して、考え付いたのは、ネットを木にかぶせるのではなく、長い竹竿二本の間にネットを張り、それを木の近くに、枝に触れないように立てるというアイデアだ。ヒヨが飛んでくると、前方にネットが張られているネットが見える。そこで彼らは危険を感じて、近づくことをあきらめる。これなら花が咲き終わった後、取り除くのも簡単だ。そしてそのアイデアを実行。ネットは二方、東から飛んでくるヒヨ、南から飛んでくるヒヨを防ぐ。西と北には家屋があるからネットは不要。杭を打って、長い竹竿に張ったネットを垂直に立てた。

 ヒヨはやってきた。だが遠くから観察しているが近づいてこない。コブシの花は安泰、これから開花する。アイデアはまず成功だと思った。ところが知恵者はいる。北と西の建物の間から、コブシの中に入り込んだのがいた。彼は人間の魂胆を見透かして、飛び去って行った。また来るよ。

 まあ、いくらかは食べてもいいよ。全滅だけはしないでくれよ。

 ちょっと愉快なのはスズメたちだ。ヒヨが来ないからか、コブシの枝にとまって群れて遊んでいる。