きもい、きしょい、うざい



 日本に来て日本語を勉強している外国人の若者が、「『きもい』という言葉を覚えました」と話しているのをTVで見た。「きもい」は、「きもちわるい」という若者言葉で、3音に短縮している。
 外国人に対する日本語指導では、形容詞と形容動詞の区別を、「い形容詞」と「な形容詞」と分類して教えている。「はやい」「すずしい」は「い形容詞」、「しずかな」「すてきな」は「な形容詞」、日本の学校文法とは教え方が違う。
 若者は、その勉強のなかで、「きもい」という現代の日本の若者言葉に出会ったのだろう。「きもい」という言葉は正式な言葉ではないということは、その若者もわかっているらしい。

 子どもや若者は、コミュニケーションに、自分らの手法を用いて簡便化しようとする。そうして生まれてきた変則的な形容詞はいくつかある。
「きしょい」という言葉がある。「きしょい」は気色悪いの略である。大阪では1980年代に既に中高生が使っていた。「きしょー」とか「きっしょい」とかとも言う。意味を強める場合は、「めっちゃきしょい」、「ちょーきもい」となる。
 「きもい」「きしょい」、どちらも感覚的であり感情的である。この言葉を友だちに対して使うと、どういうことになるか。言い方にもよるが、強く感情を込めて言われると、言われた子は、自分は嫌われた、否定されたと思う。この言葉がエスカレートすると、「うざい」となる。「うざい」は、「うるさい」「うっとしい」「じゃまだ」の意味がある。いすれも他者に対して吐かれると、攻撃的な言葉となる。1980年ごろから、学校で「仲間はずれ」「いじめ」の現象が顕著になり、不登校が増え、2000年代にはいって自殺も起こったと言われているが、言葉の底に流れている何かが、そういう言葉となって現れている。
 大きな時代の流れと社会の変化が、子どもに現れ、言葉に現れる。
 形容詞は、ものごとの性質、状態、心情を表す言葉である。認識と感覚と感情の動物である人間の複雑さが多様な形容詞を生み出した。「い形容詞」には、「さむい」「まるい」「こわい」のような3音のと、「くるしい」「かなしい」「きびしい」のような4音のとがあるが、効率化へと傾斜する現代人は、3音のほうが簡便だから、新たな3音形容詞が若者たちから生産されてきた。

 
やばい、きしょい、きもい、うざい、ださい、
とろい、だるい、むずい、こすい、まぶい、
うっとい、ずるい、まずい、‥‥


 お母さんはが言う。
 「はよ し」。
     「はやく しなさい」の短縮。

 子どもはが言う。
 「はよ いこ」
     「はやく いこう」の短縮。

 3音の形容詞「はやく」が、2音になった。「しなさい」が「し」、「いこう」が「いこ」と省略している。


「明日テスト? やば」。
「えっ、テスト? まず」。

 そのうち、1音になるかもしれない。そうなったら大人にとっては意味不明。