「またはら」って、何だ? 4音略語は感じが悪い

 

 何? マタハラ? 股と腹のことか? NHKのニュースが「マタハラ」が増加していると言っている。
 聴いていると「セクハラ」「パワハラ」の「ハラ」だと分かった。そうすると股にハラスメントか。暴力的なわいせつ行為だなと思ったら、「マタニティ ハラスメント」だとアナウンサーが解説している。妊娠している女性社員に対してなされる嫌がらせのことだった。「harassment」は「嫌がらせ」のこと、差別的な行為だ。
 さらに「クローズアップ現代」でもそれが取り上げられ、キャスターの国谷さんも「マタハラ」という言葉を使っている。この4音略語は感じが悪い。汚い語感だ。どうして正常の「マタニティ ハラスメント」と言わないのか。

 4音略語(4拍略語と言う人もいる)を学校の授業で取り上げたらおもしろい授業ができるだろうなと思う。

 「みなさん、4音略語、知っているのをあげてみましょう。」
 生徒が手を上げる。出るは出るは‥‥

しゅうかつ、こんかつ、げんぱつ、いけメン、いくメン、しょうエネ、ママチャリ、カーナビ、デジカメ、コンビニ、メルとも、ケータイ、ちゃくメロ、パソコン、ヤンママ、キムタク、‥‥‥

 ある解説書の表紙タイトルに「とりせつ」と書いてある。なんだ? わけが分からない。中を開くとそれは「取り扱いの説明書」だった。どうしてこんな略語にしなければならないのか、合点がいかない。「取り扱いの説明書」と書いたほうが誤解されないですむのに。
 「ドリカム」という言葉を聞いたのは4年前、意味不明だった。昨日、それが「ドリーム カム トゥルー」だと知った。
 「こんかつ」を初めて聞いたときは、なんだ? 「とんかつ」の親戚か? だった。本来の目的を実現していく願いからして、略さないで「結婚活動」というほうが、ずーっといい。「こんかつ」なんて、訳のわからない音を連ねて、内容まで軽薄にしている。この略語もNHKなどメディアが平気で使ってきた。
縮めればいいというもんじゃない。言葉には言葉のもつ世界がある。言葉の心がある。言葉を切り刻んで、一部を捨てて便利化だけをはかろうとするような使い方は、人間の感性を貧しくする。なんでもかんでも、便利に、簡潔に、速く、労少なく、という現代の速成文化が、言霊のさきわう国の言語の世界を破壊している。
 略語は4音に限らない。3音もある。
 子どもが言葉を覚えていく過程と、人間が言葉を作り始めた過程とは通ずるものがあるはずだ。いちばん最初の言葉は、親を呼ぶ言葉と食べ物を指す言葉だろう。そこで、

 「では、みなさん、自分にいちばん身近なものの名前を言ってください」

いえ、はは、ちち、つち、みず、こめ、まめ、むぎ、にく、いも、くさ、くり、そば、むら、やま、かわ、もり、はし、みち、そら、ほし、いし、はな、くも、き、とり、みせ、た、はたけ‥‥

 「自分の体の部分の名前を言ってください」

かお、め、みみ、はな、くち、くび、むね、かた、て、ゆび、ちち、うで、はら、へそ、もも、あし、しり‥‥

 「2音が多いですねえ。いちばん早くつくられた言葉はこんなものかもしれませんね。やはり、人間のいちばん身近にあるものでしょうね。では、体を動かす言葉は?」

みる、きく、とぶ、くる、ゆく、よぶ、ねる‥‥。

 「動物は?」

うし、うま、さる、いぬ、ねこ、やぎ、しか‥‥。

 1音では少し。2音になるとたくさん言葉がつくられる。そして3音、4音の単語も出てくる。

あたま、からだ、さかな、あるく、はしる、おきる、さがす、いれる‥‥
さむい、こわい、はやい、くらい、とおい、ちかい、いたい、かゆい、つらい、ながい、かたい、つよい、よわい‥‥
あかるい、くるしい、みじかい、さびしい、まぶしい、やわらかい‥‥
あめふり、あおぞら、こんげつ、みずいれ、ほうちょう‥‥

 1音の単語、2音の単語、3音の単語、4音の単語‥‥。
 これらの言葉が組み合わされて長い言葉が生まれていった。そのなかに、言葉の抑揚、リズムも生まれてきた。

 「では、わらべ歌を考えてみましょう」

               <またあした>