「さらば原発 長野県民集会」で知ったこと



「さらば原発 県民集会」に参加した。会場の松本文化会館は、浅間温泉の手前にあり、松本市内の道路には雪はなかった。会場に入ると、やっぱりこの世相、参加者は高齢者が圧倒的だ。若い人たちはどこへ行ってしまったのだろう。それでも会場に小さな子どもを連れて参加している若いお母さんがちらほら見えたのは、母親として切実な問題だからだ。参加者は700人ほどだった。

基調提言は、元信州大学学長の宮地良彦氏と信濃毎日新聞主筆の中馬清福氏の二人。
宮地氏は物理学者として原子力の平和利用という道の間違いを歴史を振り返りながら、文明そのものの問い直しのときだと話され、中馬氏は本当の豊かさとは何か、我々は明確に脱原発の方向に舵を切り換えるべきであり、日本人が忘れている直接民主主義の意思表示をいまこそ行使すべきだと訴えられた。

フォトジャーナリスト・山本宗輔氏は、震災直後に福島原発近くまで潜入して放射線を測定しながら現地を写してきた映像をスクリーンに映し、大手メディアの報道しなかった事故直後の生々しいゴーストタウンの実態を語った。カメラがひとつの病院に入ると、いくつものベッドや車椅子が病院玄関の外に放置されていて、そこまで入院患者は運ばれてきてそこから緊急避難の車に乗せられていった病人たちと医師・看護師たちの、動顚し、狼狽し、パニックに陥ったであろう様子や、そこにはその後誰も戻ってこなかったことを如実に示す映像には、観客の中からため息が聞こえた。
昨年12月に撮影された、酪農家の牛舎でミイラ化したまま放置されている牛たちの映像は悲しく、その場面でもかすかなうなり声のような観客の吐息を聞いた。


集会は、被災者の体験談や詩の朗読、合唱などを織り交ぜ、三時間半におよんだ。
途中の休憩時間に、前の席の人が、数枚のチラシをくれた。それはリニア中央新幹線への警告ともいえるもので、東京、神奈川、山梨、長野、千葉などのリニア新幹線の計画沿線にある市民団体のつくったチラシだった。
リニア新幹線の計画が出たとき、長野県といくつかの都市は、ぜひともルートをわが町へと、誘致のラブコールを送っていたが、この運動体の訴える内容は全く逆で、読んで目が覚める思いがした。
JR東海がすすめるリニア新幹線は、東京―名古屋間で5.4兆円、東京―大阪間で9兆300億円という試算らしいが、たぶんそれよりもっと莫大な額になるだろうという予測である。それを借金によってまかなう。その負債をどう返済するのか。
南アルプスのどてっぱらにトンネルを貫通させて走らせるというのも環境にどのような被害を与えるか。
そしてこのリニアカーを走らせる電気はどうなるのか、そのためには原発3基分とも5基分とも(この会の発言者の中でも意見が異なっていた)言われる電力が必要になる。運動団体は、
「基礎データが非公開となっているためにあくまで推論による計算でありますが、原発数基分が必要だということは間違いのない事実なのです。」
南アルプス世界自然遺産の指定を目指しているほど、自然環境や生態系が豊かなところです。そこに20キロものトンネルを掘れば、大きな自然破壊はまぬかれません。また南アルプスには中央構造線糸魚川静岡構造線などの大断層があり、こんな危険なところにトンネルを掘るのは無謀です。」
そして、車両と走行速度への危険、走行時の強い電磁波の危険などがある。


とんでもない計画だった。その計画に対してなんら警戒心をもってこなかった。
発展することはよいことだ、進歩することはよいことだ、夢の新幹線は、誇りうる技術だ、と原発神話のそのうえに、まだ発展神話がまかりとおっている。
この国の足下に大きな落とし穴が開いているというのに。
いったいこの国はどうなるのだろう。