柿の実


息子の嫁のお父さん、力一さんがたくさんの富有柿を送ってきてくださった。
大粒ぞろいのみごとな、和歌山五条の柿だ。
楽しみが増えた。


6年前、その隣の御所市に住んでいたとき、金剛山麓も柿の産地だった。
熟れすぎて出荷のできなくなった富有柿の大きなのを、ご近所の農家が門前に箱を置いて格安で販売していた。
散歩の折、それを見つけて食べてみると、あまりにおいしかったので、また買いにいく。
誰もいない門前から家の中にいるおばあちゃんに声をかける。人通りの無い旧高野街道が家の前を走っていた。
門扉の横に置かれた柿箱の傍らに立って、奥の母屋にむかって叫ぶ。
何回か呼ぶと、おばあちゃんが出てくる。やさしいおばちゃんは、いつも値段以上の柿をおまけして袋に入れてくれた。
ときどき孫が出てきて売ってくれた。小学一年生の元気な女の子で、おばあちゃんっ子だった。
その子もまた気をきかせて、おまけしてくれた。


柿がこれほどおいしいものか、と感じ入ったその時から、ぼくは柿のファンになり、その後安曇野に来て、ご近所の巌さんの「平種無し」を干し柿用にいただき、それがまたすごい糖度でうまい。
冬の日、居間でこの干し柿を毎日一個ずついただきながら、熱いお茶をのむのは至福のひとときだ。
我が家にも柿の木があったらいいな。そこで四年前に、庭に富有柿の苗を一本植え、今年は平種無しの苗を一本植えた。
「桃栗三年 柿八年」、
富有柿は、ことし初めて5個の実をつけた。平種無しは、実をつけるまでまだこれから四、五年はかかるだろう。


「かす漬けにいいよ。」
「雪化粧という名のカボチャです。」
とか言って、ご近所の良子さんが、瓜や珍しい真っ白な皮をしたカボチャを自転車に乗っけてこの前持ってきてくださった。
それではこれをと、五条の柿の大きなのを、おすそ分けに持っていった。
「まあ、みごとな柿。うれしい。主人は柿、大好きなんです。わが家の柿は小さくて、いま買っているんです。」
そこへ車が来た。
「主人を風呂に入れてくださる、介護の人が来てくれました。」
高齢のお二人、ご主人は体がご不自由、奥さんは腰痛もち、毎週一回、介護に来てもらっている。


武者小路実篤に、「柿の賦」という詩がある。
その一節、柿の木自身が詠い、そして実篤がつぶやく。


   「我人々と同じく 風雨にさらされ、
   人々と同じく 雪霜になやまさるれども
   我は天与の食物をとりて その内より甘露を集めて わが実をつくりたるなり

   我は甘露の雨にうたれしことなく 甘露の泉に根をはりしことなし
   されど我、その内より甘露をとりぬ。

   我 又 かくの如きか。」


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