薪割り

新しい斧(おの)を買ってきて、薪割りを始めた。
格安でいい斧が手に入らないかと、ネットで調べてみたけれど見つからず、結局ホームセンターで買うことにした。


少年の頃、家の薪割りをよくやった。それはかまどで燃やす薪をつくるためで、父親が買ってきた長柄の斧は重かった。
右手を前方に左手を後ろにして柄の先を握る。頭に振りかぶり、振り下ろす。目標のところにはっしと命中すると、短く切った丸太は、ぱりんと気持ちよく二つに割れる。
失敗もした。
斧の刃を対象物の真ん中に打ち下ろすことに失敗するのは、割る薪との間に距離があるからだ。割っているうちに、斧を振り上げたときのバランス、力の入れ具合、目測して距離をとる感覚などが身についていった。
この感覚は、もちつきの杵(きね)でつくときにも役立った。
少年時代の斧は、使ううちに斧の刃が摩滅して、円くなった。
やがてガスの時代になり、斧はもう使うことはなかった。


慶太君が、建築現場で伐採してあった二本のクヌギの樹を持ってきてくれたのを、手挽きののこぎりで輪切りしていたが、やっぱりチェーンソー
で切らないといつまでかかるかわからない。直径25センチはある。さてどうするかなと思案していたら、ご近所の奥さんが息子さんに声をかけてくれた。
息子さんは園芸の仕事をしているから、チェーンソーはお手のものだ。
息子さんはチェーンソーを持ってきて、たちまち数十個に輪切りしてくれた。
輪切りにした丸太は、長さが30センチほどのや40センチ以上あるのや、いろいろある。


いよいよ新しい斧の登場となった。
まず30センチほどの丸太から始めた。昔とったきねづか、斧はあやまたず木の芯に当たって、軽く二つに割れた。
短いのばかり先に割っていって、長いのに移った。
力いっぱい打ち下ろした。
ばしっ、斧の刃は木の中に食い込む。が、それ以上行かない。
斧に木が食い込んだままのを持ち上げて、ふたたびガツンと下ろす。
割れない。木は固かった。
食い込んだ斧を引き抜くのは力がいった。
あれこれやって斧を引き離す。
何度かまた斧を打ち込む。
こうして割れたのもあり、割れないで他の方法をとらなければならないものもあった。
斧を打ち込んでできた割れ目に鉄のクサビを打ち込んで、徐々に割っていく方法だ。


割っている最中に、奈良の北さんから電話がかかってきた。いま何している、と言うから、
「薪割り、飯炊き、小屋掃除、
みんなで、みんなで、やったけ。」
と昔よく歌った山の歌を歌ったら、電話の向こうで笑い声が聞えた。山岳会のOB会があるというが、ぼくは行けない。


今度は近所のイワオさんから電話があった。
「いま、材木のいらないのを車に積んである。持っていくだ。」
軽トラに積んで持ってきてくれたのは、建築の古材と杉の丸太だった。


ふところが寒いけれど、いよいよチェーンソーを買わなければならないか。
おぐら山農場」でリンゴの収穫をして、知人友人に送る準備をしていたら、アキオ君のお母さんのフウちゃんがぜんざいを作ってくれていた。
アキオ君の家でも、薪ストーブが赤々と燃え、冷えた体が内と外からほかほかとなった。


    ★     ★     ★