『原子力のたそがれ』




雑誌『世界』に掲載されてきた原子力関連の論文を、岩波書店が無料でインターネットに公開しているということを新聞で読み、開いてみた。
その中から、『世界』の今年の一月号に掲載された、『原子力のたそがれ』(マイケル・シュナイダー)を取り出して読んだ。


当論文は、昨年の10月に、参議院会館で行なわれた講演の記録である。講師のマイケル・シュナイダーは、ドイツの「エネルギーと原子力政策に関する独立コンサルタント機関」代表。
今回の地震津波災害の約半年前に、人類の方向性にかかわるこのような講演がなされていたのだ。
地震津波で破壊された福島原子力発電所は、恐ろしい化け物となり制御不能の状態になっている。いつのまにか原発神話を信じていた日本国民は、はじめて牙をむいた原発の正体を知った。


論は、アメリカ、フランス、ドイツのエネルギー政策分析から浮かび上がる再生可能エネルギーの優位性を報告する。
原発はクリーンであり、地球温暖化の抑制に対する有力な発電であるという考え方があるが、実はコスト面でも、発電量でも、実態はそうではない。各国のデータはそれを示している。
原子力から再生可能エネルギーへ、世界は動きつつあるのだ。
シュナイダーの指摘。


「わたしは、進行中のエネルギー革命の中で、日本は取り残されていると本当に思う。
この革命はすでに起きているのだ。興味深いことに、日本は何十年も最先端を走っていた。
その日本が、エネルギー部門で起きている根本的な発展状況において、おいてけぼりになっている。原発は国際的エネルギー分野で、限定的な役割しかはたしていない。
原子力は、世界の電力の約13パーセント、最終エネルギー消費の約2パーセントだ。恐らく今後さらに低下するだろう。
原発は、気候変動の緩和にとって意味を持ち得ない。関係がないと言ってもいいのだ。」


未来は再生可能エネルギー(風力、バイオマス、太陽光など)の開発技術とあわせて、エネルギーを無駄に浪費せず、効率的に利用する技術を向上させるプログラムが世界の大勢になっていかねばならない。それを二酸化炭素排出量低下につなげていく。そのためにはそれに合致した都市計画も必要となり、生活・暮らしの変革も実施していかねばならない。
結局、原子力依存の政策は、集中型であり融通性に欠け、専制的アプローチを具現することになるのだ。


ドイツでは、100パーセン再生可能エネルギー利用をターゲットにした地方自治体連合が形成されているとシュナイダーは言う。
このネットワークは、現在、ドイツの国土面積の半分以上、人口にして約3500万人をカバーしている。
政府が何を決めようと、自分たちでやることは自分たちで決めようという考え方で人々は動いているというのだ。
上から下へのトップダウンではなく、下から上へのボトムアップである。
地方自治体連合のネットワークが2010年の秋に世論調査を行った。
「現在何が再生可能エネルギー拡大の障害になっていますか。」
この問いに対して、78.2パーセントの人たちが、「障害は、政府の原発運転期間の延長」を指摘した。


原発に依存し、それを頼りにすることが、継続可能なエネルギーへの転換を遅らせる。
今度の大災害は、ドイツの政策を元に戻すだろうし、日本では根本的に考え直さねばならないことになる。