職の安定と社会の安定<孟子の教え>


古典の漢文教材の中に、孟子の政治論がある。
「2300年前、中国戦国時代の思想家、孟子がこんなことを言ってるんですよ。教材を読んでみましょう。」
孔子孟子は、「孔孟の教え」と言われ、儒教儒学として日本に影響を与えた。
孟子が言っているのは、「無恒産無恒心」、漢文読みは「恒産なければ恒心なし。」
訳せば「安定した職がないと、常に安定した心でいることができなくなる。」


孟子の言葉をさらに意訳してみると、
「安定した職がなくても、心が安らかで変わらないでいられるのは、学問を修め、道理を体得した人ぐらいのものである。
普通の人民となると、安定した職がないとそれが原因で安定した常の心を失ってしまう。
もし人がこの常に変わらぬ心を失い、精神的に不安定になれば、勝手気ままに不正なことをやらないとは限らない。
人が罪を犯すようになると、その後を追いかけて刑罰を加える。
これでは人民を法の網に引っ掛けるようなものである。
どうして仁徳をそなえたりっぱな人が君主の位にいて、人民を法の網にかけるようなことができるのか、そんなことはできはしない。」


古典教科書のなかの教材はずべて教えることはできないし、全部教える必要もない。
選抜して教え、生徒の実態に合った教科書にない教材も開発することが必要なことだ。
就職難のこの時代、学校を卒業しても職がなかなか見つからない。
孟子のこの文章はその意味で、この職を得ることの意味を考えることもできる。
さらに犯罪と法の関係も考える。
国民の生活を破綻させておいて、法を網の目のようにはりめぐらし、犯罪を取り締まる。
日本だけでなく世界を見るとどうだろう。
死刑についても、必要論と廃止論とがある。
重犯罪には厳罰も課さねば、犯罪はなくならないという考えも多い。
孟子の文章は、そのことを考える一つのきっかけとなる。
孟子の倫理説は性善説にもとづいている。
性善説性悪説、これも考えてみよう。


2300年前の人が、現代に通じることを考えていた。
「みなさん、これどう考える?」
と生徒に課題として投げかける。
さて、どうなる。