木村秋則さんの自然農法と日本の自然教育



穂高駅前通りの古本市に行った。
出店したい人が歩道で、段ボール箱に入れた古本を並べている。
数十冊の本を前に置いて、売り主がのんびり本を読んでいる。
売り主のいない、本だけのところもあり、そこは1冊100円を箱に入れればいい。
そこで見つけた1冊が、木村秋則『リンゴが教えてくれたこと』(日本経済新聞出版社)だった。
未だ新しい本で、実におもしろい。奇跡のリンゴの栽培に成功した木村さんの生き方には目をみはる。
木村さんの前歯がほとんど抜けて、ふがふがなのは十年間リンゴが稔らず、生活資金が絶え、キャバレーのアルバイトなどで食いつないだことがあり、そのときにヤクザになぐられた結果だった。
木村さんは、無農薬、無肥料で奇跡のリンゴを稔らせることに成功し、その農法を発展させて米作りにも挑戦、自然の力を蓄えたおいしい米を作っている話もまた驚異的だった。
これはもう多くの人に読んでほしい本だ。


ところで、この本の中にぼくの注目する内容があった。
韓国の人たちの反応なのだ。
韓国の人たちは木村さんの自然農法におおきな関心を持ち、それに応えて木村さんは韓国の人たちにも田んぼのことを教えていた。


 「韓国には年に何度も足を運びます。韓国では日本よりも食、農に対する関心が高く、KBS放送が私の特集を組んだりしています。
 韓国は日本と並んで世界でも最も農薬散布が多い国です。しかし、韓国の国策は変わろうとしており、少しでも肥料、農薬を減らす栽培に向かっています。年に約600人の韓国人が勉強にやってきます。食と農の安全は消費者も生産者も関心のある問題です。クリスチャンの牧師さんが一年に四、五回も来ます。牧師だけで生活できないから農業をやっているのだそうです。韓国国民の半分はクリスチャンです。韓国には日本より早く農薬や肥料を使わない農業が広がるでしょう。
 朝鮮戦争など爆弾の影響で韓国の表土はすごくやせています。不発弾も出てきます。しかし、二、三十センチ掘ると本来の土が出てきます。私は土を変えよう、段階を追ってやりましょうと呼びかけています。
 韓国の人にはこれがいいとなると全部一気にやろうとする国民性があります。よく失敗します。まず土をつくっていくべき時なのに、すぐ植えようとします。‥‥そんなに大きくなくていいから、おいしいものをと改良に取り組んでいます。ハウス、露地、田起こしなど何でも教えます。理屈ではなく少しずつ実技を教えている段階です。‥‥
 韓国は除草剤の使用がそれほどなかったので、マメ科カラスノエンドウがそこかしこに生えていました。それが救いでした。作物のわきにカラスノエンドウを一緒に植えると、窒素固定、養分補給になります。カラスノエンドウは土壌にあれほど働くのに、化学物質にはからきし弱い植物です。昔は日本の道ばたでもカラスノエンドウが生えていましたが、除草剤の普及で消えかけています。」


この文章を読んでいて、はたと気づくものがあった。
先日我が家にやってきた熊本の八重樫さんは、自分の仕事柄、安曇野の野外保育に関心を示し、一つの野外自然保育の会「響育の山里・野外保育 くじら雲」の実践を一日見学してきた。
見学して写した写真には、山に登る子どもたち、収穫する子どもたち、火をたく子どもたちなど、元気に生き生きと自然の中で遊ぶ子どもたちが写っていた。
「この冬に、韓国からたくさんの教育関係者が、くじら雲に見学に来るそうです。」
と八重樫さんは言う。
すでに韓国では「生態幼児教育、森との出会い 日本における森の幼稚園の現況と方向」というテーマで、「くじら雲」の実践を取り上げ、大学で学術会議が行なわれている。
「これから韓国は、これまでの教育を変えていこうとしています。」
教育の分野においても、農業の分野においても、韓国は自然を取りもどす方向を模索し始めている。それもかなりの意欲的な実践をともなって。
日本は、ほんの少しやってみた「ゆとり教育」の総括をあいまいにして、またもや後戻りをしている。
これでいいか、未来に向けて考えねばならないことだと思う。